フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 対中国で変質するG7サミットと新たなインフラ投資構想

対中国で変質するG7サミットと新たなインフラ投資構想

2021/06/14

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

中国包囲網を強めるG7サミット

6月11日から13日まで英国コーンウォールで開かれていたG7サミット(先進7か国首脳会議)が閉幕した。今回の会議ではG7サミットが、先進国が主導する形で世界全体が抱える問題への対応を議論する場から、「民主主義国家」が連帯を強めて中国を中核とする「専制主義国家」に対抗する戦略を議論する場へと、性格を変えつつあることがうかがえた。G7サミットに中国と対立するインド、韓国、オーストラリア、南アフリカが招待されたことは、それを裏付けているだろう。また、宣言には台湾海峡の安定やウイグル人権問題など中国を強くけん制する異例の文言が盛り込まれた。

G7サミットで民主主義国家の連帯と中国包囲網を強く演出したのは、米国である。対中強硬姿勢については、経済的な関係などを重視して、各国で温度差があったものの、米国が押し切った形となったのではないか。

宣言には東京五輪開催への支持が盛り込まれたが、これは日本の強い働きかけによるものだ。しかし、それ以外のほとんどのテーマについては、議長国の英国ではなく米国が主導した感が強い。米国のトランプ前大統領が孤立した感が強かった昨年までのG7サミットとはまさに様変わりである。

コロナ対策では、G7で10億回分のワクチンを途上国に提供することが米国の提案で決まった。これも人道的観点だけでなく、ワクチン外交を大々的に繰り広げてきた中国への対抗、という側面が相応にあるだろう。

中国は、コロナ感染の抑制と経済の回復をどの国よりも早く実現し、また国内で開発したワクチンを積極的に他国に提供してきた。中国にとって、このコロナ問題は、自らの政治・経済制度の優位性を広く世界にアピールし、友好国を拡大していく勢力拡大のまたとないチャンスとなったのである。この状態に強い焦りを感じたバイデン大統領は、このG7サミットを勢力挽回、失地回復の起点とする考えだったのだろう。

「一帯一路」に対抗する新たなインフラ投資構想の課題

中国包囲網の一環としてG7サミットで米国が提案し合意されたのが、中国が進める巨大経済圏構想「一帯一路」に対抗する新たなインフラ投資構想だ。世界の低中所得国に対し、数千億ドル(数十兆円)規模のインフラ投資を進める新たな取り組みとなる。労働者の人権問題や地球環境問題などに十分に配慮した、透明性の高い、質の高い融資の枠組みとし、中国の「一帯一路」に対抗する考えだ。

しかしこうした条件に基づくインフラ融資は、中国の「一帯一路」への対抗軸として、従来からG7が打ち出してきたものと変わらないのではないか。G7はこれらを世界銀行やアジア開銀などを通じて実施している一方、中国の「一帯一路」は透明性の低い、質の低い融資の枠組みであるとして、「借金漬け外交」とも批判してきたのである。今回の新たなインフラ投資構想の実現を担うのはどこなのか。世界銀行、アジア開銀などの既存の国際機関ではないのか。

低所得国にとって、世界銀行、アジア開銀からのインフラ投資の借り入れは、条件が厳しすぎて利用しにくかった、という問題があったと考えられる。また、中国の金融機関から資金を借り入れ、中国の建設会社にプロジェクトを発注する場合、他国の建設会社よりも低コストとなるというメリットがあった。

低所得国が中国からの借り入れに依存するのは、こうした事情がある。そうした点に配慮せずに、G7が中国に対抗して新たな低中所得国向けのインフラ投資の枠組みを作っても、上手く機能しないのではないか。

G7は世界全体の観点から様々な問題解決を

G7が低中所得国向けのインフラ投資をポストコロナの世界経済の成長や地球温暖化対策につなげる考えであるならば、低中所得国側の事情にも配慮して、従来の国際機関による融資の姿勢を多少なりとも修正する必要があるかもしれない。中国への対抗ばかりでなく、低中所得国のインフラ不足という世界が抱える問題への対応に、有効な施策となることをまず第1に考える必要があるだろう。

今までは、「G7で議論されたテーマをより多くの主要国が参加するG20で発展させていく」、という流れのなかで、世界全体の課題を解決に導く処方箋が示されてきた。

しかし、G7が「先進国が中国包囲網を議論する場」という性格を強めていくならば、中国も参加するG20ではG7と同じテーマは議論されず、G7からG20へ議論が受け継がれ発展していくという、従来の流れは途切れてしまうだろう。その結果、G20は一段と形骸化が進み、主要国が世界規模の問題解決に取り組む姿勢が後退してしまうことが懸念される。

G7関連の会合では、いたずらに中国との対立の構図を煽ることは建設的ではないだろう。それは、世界の分裂を促すことにもつながる。G7は引き続き、多様な国で構成される世界全体の利益に基づき、様々な問題の解決に道を開く偉大なリーダーたちの会議であって欲しい。

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn