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欧州復興債の発行準備が進む

2021/06/16

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初めての共同債という歴史的意義

欧州連合(EU)は昨年7月、新型コロナウイルス問題で大きく打撃を受けたEU経済の復興を支えるため、復興基金の創設を決めた。その財源を賄うためにEUが発行するのが復興債である。復興基金が政府保証の債券を発行するのではなく、EUが共同で借金をする初めての共同債となる。これは、欧州の財政統合にもつながる歴史的な一歩と言えるだろう。

共同債の発行は、ドイツなど財政環境が健全な国の高い信用力を使って、財政環境が悪く信用力の低い国が低いコストで資金が調達できる構図となる。それはドイツなどの負担を高めるとともに、財政環境が悪い国の財政規律を緩めてしまう可能性がある。こうした背景のもと、共同債についてはドイツが長らく反対していたが、新型コロナウイルス問題で経済が大きな打撃を受けたEUの結束を強める観点から、ドイツが賛成に転じたことがその実現に道を開いた。

EUは復興債を5年間で8,000億ユーロ(約106兆8,000億円)相当発行する計画だ。そのうちほぼ3分の1は、グリーンボンド(環境債)となる見通しである。初回の発行は10年債であり、8月の夏季休暇時期に入る前にシンジケート団を通じて3回、復興債を発行する計画であることをEUは明らかにしている。年内に約800億ユーロ発行する計画だ。

その第一弾については、シンジケート方式で発行されるが、EUは投資家の需要調査を開始した。その結果、非常に旺盛な需要が確認されている。

EUの国債市場では、ドイツ国債がリスクフリーのベンチマークとなっている。しかし、財政環境が良いドイツ国債の発行額は限られている。今後、発行額が増えていけば、この復興債はEUの国債市場でベンチマークの役割を果たしていくことが期待される。

ECBの緩和縮小議論にも影響か

復興基金の創設が決まるまでは、コロナショックで打撃を受けたユーロ圏経済やユーロ圏市場を欧州中央銀行(ECB)が一手に支える構図となっていた。ECBは、昨年3月にパンデミック緊急購入プログラム(PEPP)を導入した。現在、このコロナ対応の時限的プログラムは、1兆8,500億ユーロの規模で、少なくとも来年3月31日まで継続する予定となっている。

しかし、欧州経済が回復に向かい、米連邦準備制度理事会(FRB)でも資産買い入れの減額措置、いわゆるテーパリング議論が始まっている中、ECB内でも、プログラムの予定通りの終了を主張する声が一部で上がっている。

14日にラガルドECB総裁は、プログラムの終了、あるいは延長などを議論するのは「時期尚早」としている。しかし、復興債が発行され、調達資金がイタリアやスペインなど南欧諸国に届けられるようになれば、その分、金融緩和の程度を縮小させる余地が生じるだろう。FRBのテーパリング議論とともに、ECBのコロナ対応の金融緩和措置の縮小・停止の議論も、復興債が発行されていく夏頃までに進展がありそうだ。

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