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政策の正常化を前倒しするFRBと将来の日銀ゼロ金利解除への示唆

2021/06/17

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2023年2回の利上げへ見通しは大きく上方修正

6月15日・16日に開催された米連邦公開市場委員会(FOMC)では、政策変更は見送られた。ただし、政策金利であるFF(フェデラルファンド)金利の誘導目標については、前回会合では参加者見通しの中央値は2023年末でゼロ近傍(0-0.25%)であったが、今回は0.5~0.75%にまで一気に引き上げられた。参加者18人のうち12人が、2023年末までに少なくとも1回の利上げを予想したことになる。

見通しの引き上げは市場の予想通りだが、引き上げ幅は事前予想を上回り、市場にはサプライズとなった。さらに資産買い入れの縮小、いわゆるテーパリングについても、パウエル議長は議論を始めることを明らかにしている。

FF金利の見通しが引き上げられたのは、米国経済が回復軌道を辿っていることに加えて、前回会合以降に公表された4・5月分の物価指標が大きく上振れたことが影響している。パウエル議長は「(利上げに関する議論をするのは)時期尚早」とする一方で、物価上昇率の上振れは一時的、という従来の説明をやや修正している。「(供給制約)は、インフレが我々の予想より高くまた長く続く可能性を高める」と、警戒的な発言をしたのである。

米連邦準備制度理事会(FRB)は昨年夏にインフレ目標政策を修正し、物価上昇率が目標値を下回った後には、一定程度上振れを容認し、中長期的な平均値が2%の目標値の水準になるような政策運営を行う、との新たな方針を示した。しかし、その方針は早くも崩れつつある。これは、物価上昇率の上振れを容認する「ビハインド・ザ・カーブ」の政策運営はかなり難しいことを改めて裏付けていよう。

FRBが物価上昇率の一時的な上振れを容認しようとしても、インフレ懸念から金融市場が不安定となれば、インフレ懸念を抑制して市場の安定を維持するために、利上げを余儀なくされる。FRBが参照するPCE(個人消費支出価格)の見通しは、2021年末で+3.4%まで引き上げられたが、その後は2022年末に+2.1%、2023年末に+2.2%と物価目標近傍で落ち着く見通しである。過去10年のPCE上昇率は+1.6%程度であるから、2021年の上昇率の上振れを考慮しても、平均値は+2%には及ばない。

FRBの利上げは日銀ゼロ金利解除に絶好の機会を与える

ところで、こうしたFRBの政策姿勢の変化は、今後の日本銀行の政策にも影響を与えるだろう。日本銀行は3月に「金融緩和の点検」を実施し、その後はETFの買い入れの大幅減額など、事実上の正常化を進めている。ただし、しばらくは大きな政策変更は期待できない。17日・18日の政策決定会合でも、変更の可能性があるとすれば9月末に期限を迎える新型コロナ対応資金繰り支援特別プログラム(コロナオペ)の延長を決めることだけだろう。

現在の黒田体制の下では、事実上の正常化は粛々と進められるだろうが、正式な正常化にまでは踏み込まない可能性が高い。その実施は、ポスト黒田体制下となるだろう。

黒田総裁の任期は2023年4月に終了する。後任人事など不確定要素は多いとはいえ、体制が変われば正式な正常化に向けた動きが始まることが予想される。その際の正常化策の第1のプロセスは、マイナス金利の解除となるのではないか。

2023年にFRBが政策金利の引き上げを始めるのであれば、それは日本銀行のマイナス金利解除を後押しするだろう。それは、日本銀行が強く恐れる対ドルでの円高進行のリスクが大きく高まらない中で、マイナス金利の解除を実施できる絶好のチャンスとなるからだ。

2013年から15年にかけてのFRBの金融緩和正常化の時期に、日本銀行はそれに追随することはなかった。その時期はまだ2%の物価目標達成を本気で目指していたからだ。しかし今や、状況は全く異なっている。

ポスト黒田体制下での日本銀行は、FRBが政策の正常化、政策金利の引き上げという機会を逃すことなく、自らのマイナス金利解除などの正常化実現にそれを最大限活用することを目指すのではないか。

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