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インフラ投資計画でバイデン米大統領は共和党に大幅譲歩

2021/06/28

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超党派案でインフラ投資計画は1兆2,000億ドルに大幅減額

6月24日に米バイデン大統領は、8年間で1兆2,000億ドル規模の超党派案を受け入れる考えを示した。ただし、この案に沿って実際に議会でインフラ投資計画の法案が可決される保証はまだない。

さらに、バイデン大統領が当初掲げていた2.0兆~2.3兆ドルを大幅に下回り、また地球温暖化対策のためのインフラ投資や現行21%から28%への法人税率引き上げ措置を含まないこの超党派案を受け入れたことは、バイデン大統領にとっては大幅な譲歩だ。

また、地球温暖化対策費が大きく減額されたことは、世界の地球温暖化対策における米国のリーダーシップを損ねることにもなる。

株式市場は、インフラ投資計画が実現に向かうとの期待からバイデン大統領の超党派案受け入れを好感したが、バイデン大統領が財源としていた法人税率引き上げが超党派案に含まれなかったことから、先行きの財政環境の一段の悪化を懸念して、債券市場は調整した。

バイデン大統領のインフラ投資計画の当初案は、野党共和党から強い反発を受けた。共和党にとって最も受け入れがたかったのは、共和党のトランプ前政権が大幅に引き下げた法人税率を引き上げて、インフラ投資計画の財源とする考えだった。さらに、インフラ投資計画に含まれる地球温暖化対策やその他高齢者介護の福祉予算など左派色の強い項目にも共和党は反発し、それらを大幅に減額する形で超党派案が作られた。

超党派案では、道路や橋、水道、高速通信網など地球温暖化対策ではない従来型のインフラ事業に5年間で約9,730億ドル、8年間で1兆2,090億ドルを支出する。より詳細には、橋と道路などの建設計画に1,090億ドル、公共交通に490億ドル、鉄道に660億ドル、空港に250億ドル、港湾に160億ドル投じる。ただし新規歳出額は5,790億ドルであり、バイデン大統領の当初案と比べて大幅に減額されている。

超党派案に民主党左派が反発

法人税率引き上げに代わる財源としては、富裕層の納税者を対象とした徴税の執行強化、戦略石油備蓄(SPR)からの原油売却代金などが想定されているが、詳細は不明である。

バイデン大統領はこのインフラ投資が柱である2.0~2.3兆ドルの「雇用計画」と、教育や子育支援などからなる1.8兆ドルの「米国家族計画」の2つを組み合わせ、約10年で総額4兆ドルの経済構想を当初掲げていた。共和党が一定程度受け入れられるインフラ投資の拡大においても、これほどの反発が生じたことを踏まえれば、より左派色の強い「米国家族計画」に対する共和党の反発はより大きいことが予想される。

当初案を大幅に修正した超党派案の受け入れについては、民主党左派から強い反発が出ている。ペロシ下院議長は超党派案について、より広範な法案パッケージを伴わなければ下院が審議することはないと述べている。

超党派案以外は民主党独自案で共和党の反対を押し切る考え

超党派案に反発する民主党左派、特に急進左派の批判に応える観点から、超党派案だけではなく、「米国家族計画」、法人・富裕者増税などの民主党独自案を含めた財政パッケージとして成立させる考えを、バイデン大統領は示している。

民主党独自案の成立とは、共和党が反対してもそれを押し切って民主党議員の賛成だけで成立させる法案のことだ。現在、上院の勢力は民主・共和がそれぞれ50議席ずつを占めている。採決で賛否が同数で分かれた場合には、上院議長(ハリス副大統領)が投票するため、実質的には民主党が過半数を占めている。

しかし、民主党が上院で共和党によるフィリバスター(議事妨害)を行っても法案を成立させることができるためには60議席が必要であり、それには達していない。そこで、フィリバスターを回避でき、過半数での可決が可能となる「財政調整措置」と呼ばれる特例措置を活用し、共和党の反対を押し切って民主党独自案を可決させることをバイデン大統領は狙っているのである。

バイデン大統領は、超党派案に反発する民主党急進左派に支持を働きかけるため、民主党独自案とのパッケージでなれれば、法案に署名をしないとの考えを示している。

金融市場の逆風もあり経済対策パッケージの成立はナローパス

それでも、民主党議員がすべて「米国家族計画」、法人・富裕者増税などの民主党独自案に賛成する保証はない。また、共和党の反対を押し切って民主党独自案を成立させる手法は、バイデン大統領が就任当初に掲げていた「民主・共和の融和」の考え方に反するものであり、国民からの反発を招く可能性もあるだろう。

バイデン大統領の経済政策が、共和党と民主党急進派の双方から批判され、両者の板挟みにあって前に進まなくなることは、バイデン政権成立時から懸念されていたことだ。それが早くも現実のものとなってきたのである。

そして、金融市場もバイデン大統領の政策に逆風となる可能性があるだろう。米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策の正常化前倒し観測で、足元の金融市場は不安定な動きとなっている。仮に今後、長期金利が顕著に上昇すれば、財政悪化を加速させる大型な経済対策の法案化には逆風となろう。また、株式市場が不安定化すれば、法人税率引き上げ、富裕者増税などの実施にはやはり逆風となる。

バイデン大統領が共和党と民主党急進派の支持を取り付け、思い描いている経済対策成立を実現させることは、まさにナローパスだ。

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