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歴史的合意に近付くデジタル課税、最低法人税率導入はバイデン政権の成果

2021/07/05

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国際的な法人税改革で大枠合意に

経済協力開発機構(OECD)加盟国を含む130か国・地域は、7月1日に国際的な法人税改革で大枠合意に達した。これは2つの柱からなる。第1は、巨大IT企業などが、法人税率が低い国に子会社を置くこと等で税逃れをすることを防ぐため、課税を強化すること、もう一つは、最低法人税率を「少なくとも15%」とすることだ。

ただし完全合意にはまだ至っていない。交渉に参加した139か国・地域のうち、法人税率が低いアイルランドなど9か国は、まだ合意していないのである。また、最低法人税率の具体的な水準もまだ決まっていない。

しかし、最終合意に向けた機運は高まっている。大枠合意の内容については、7月9日からイタリアで開かれる主要20か国・地域(G20)の財務相・中央銀行総裁会議に報告される。今年10月までに最終合意に至り、その後、参加国による多国間条約の締結や各国の国内法改正を経て、2023年の導入が目指されている。

世界で100社程度が新制度の対象に

現在の国際法人課税制度は、製造業を念頭にして約100年前にできたかなり時代遅れのものと言える。本社、工場など拠点のある国で課税されるのが原則だ。しかし、巨大IT企業は、拠点を置くタックスヘイブン(低課税地域)で節税をする一方、拠点がなく税金を支払わない多くの国で消費者にサービスを提供して、巨額の利益を上げている。

今回合意された枠組みでは、新たに課税対象となる企業は、売上高200億ユーロ、利益率10%をそれぞれ超える企業となる。この条件を満たす企業は世界で計100社程度となる見通しであり、米国の巨大IT企業を狙い撃ちするものだ。そのため、日本企業への影響は大きくないとみられる。ただし条約発効から7年後には各国の対応状況を評価した上で、売上高の基準を200億ユーロから100億ユーロに下げ、対象を拡大する。

そして、利益率が10%を超える部分の利益について20~30%の課税を行い、それをサービスが提供される市場国に分配する仕組みだ。OECDによると、合計で年1,000億ドル超の利益が課税対象になるという。

一方、最低法人税率については、工場など実体がある投資への税軽減策は除外される見通しだ。

新型コロナウイルス問題とバイデン政権成立が合意の鍵

多国籍企業の課税逃れを防ぐ国際的な議論は2012年に始まり、既に10年近くの年月を費やしてきた。それが足もとでにわかに決着の方向に動き出した背景には、新型コロナウイルス問題の発生とバイデン米政権成立の2つがあるのではないか。

新型コロナウイルス問題の発生によって、サービス業を中心に多くの企業が打撃を受ける一方、巨大IT企業は逆に追い風を受けて収益を拡大させた。こうした環境が、世界的に巨大IT企業への反発を一層強め、課税強化への機運が高まることを助けただろう。

さらに、コロナ対策で財政環境が急激に悪化するなか、最低法人税率を導入し、税率引き下げ競争に終止符を打つことは、法人増税によってコロナ対策の財源を確保することに道を開くものだ。そこで、多くの国が最低法人税率の導入に賛成した、という側面もある。

米トランプ前政権の下では、デジタル課税を巡って米国と欧州諸国が激しく対立していた。巨大IT企業への課税強化は、米国の税収と米国企業の収益を損ねるものでもあったためだ。

バイデン政権の大きな成果

しかし、企業に対する公正な課税を求めるとともに、国際協調を重視する民主党バイデン政権が1月に成立したことが、合意に向けた大きな原動力となった。各国間での利害の対立という複雑な方程式を解く秘策ともなったのが、バイデン大統領が呼び掛けた最低法人税率の導入だった。

新たな法人税改革では、巨大IT企業への課税強化でデメリットを受ける米国とメリットを受けるその他の国との間の利害、最低法人税率の導入でデメリットを受けるタックスヘイブンを中心とする新興国とメリットを受ける先進国との間の利害を同時に調整することが求められた。巨大IT企業への課税強化と最低法人税率の導入を同時に議論することが、各国の複雑な利害を調整することに役立ったのだろう。

バイデン政権は、米国内で法人税率引き上げを目指している。最低法人税率の導入は、米国が法人税率を引き上げても、他国でさらなる法人税率の引き下げが進み、米国企業の競争力低下、米国企業の海外流出がさらに進むことを防ぐ、という自国の利害に基づく狙いもある。それでも、国際的な法人税改革を強く後押しした点は評価されるべきだろう。

バイデン政権は、対中国包囲網を強化していることから、様々な分野において、中国やその他新興国と先進国との間で合意に至ることは一段と難しくなってきている。しかしそうした中、この国際的な法人税改革においては両者が歴史的合意に向かっていることは、バイデン政権の大きな成果と言えるだろう。

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