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日銀の気候変動対応投融資支援オペはどのような枠組みになるか

2021/07/09

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気候変動対応投融資支援オペの設計はコロナオペに準じるか

7月16日の金融政策決定会合で日本銀行は、民間金融機関の気候変動対応投融資をバックファイナンスする、新たな資金供給の枠組みの骨子素案を公表する予定だ。

日本銀行は、これを成長基盤強化支援オペの後継制度と位置づけているが、実質的には、この先残高の減少が見込まれるコロナオペの後継との意味合いが強いだろう。従ってその仕組みも、コロナオペに準じるものとなることが予想される。

その場合、系統中央機関を含む金融機関を対象に、共通担保に基づいて貸出が行われる。そして、貸付利率は0%としたうえで、「マクロ加算倍増措置」と日銀当座預金への付利が行われるだろう。

ただし、貸付期間については、コロナショックへの短期的な対応であるコロナオペの1年以内ではなく、成長基盤強化支援オペと同様に4年以内になるのではないか。気候変動リスクへの対応は、より長期の課題であるためだ。

コロナオペは2020年3月に導入され、同年5月にはオペ利用額に対応する日銀当座預金に+0.1%の付利をすることが決められた。そして、2021年3月の「金融緩和の点検」を踏まえ新たに打ち出された貸出促進付利制度のもとでは、さらに付利の引き上げが行われた。

信用保証が付かないプロパー融資に対応する日銀当座預金には+0.2%の付利がされる(カテゴリーⅠ)。信用保証が付くプロパー融資以外の融資には、+0.1%の付利がされる(カテゴリーⅡ)。ちなみに、成長基盤強化支援を含むその他オペについては、付利の水準は0%である(カテゴリーⅢ)。

注目される付利は+0.1%となるか

そこで、気候変動対応投融資支援オペについては、付利がどの水準となるかが注目されている。可能性としては大きく4つ考えられるのではないか。第1は0%、第2は+0.1%、第3は+0.2%、第4は+0.1%と+0.2%の組み合わせだ。

第1については、日本銀行は気候変動対応投融資支援オペを成長基盤強化支援オペの後継と説明している。従って、成長基盤強化支援オペと同様の0%の付利になると考えるのも自然なことだ。しかしその場合、銀行が新型オペを利用するインセンティブは高まらず、新しいオペに対する日本銀行の積極性が欠けるとの印象を市場に与えてしまう。

第2、第3については、+0.1%よりも+0.2%の方が日本銀行はより積極性をアピールできる。しかし、将来、追加的な措置を迫られる局面に備えるならば、まず+0.1%から初めて、引き上げののりしろをとっておいた方が良い、と日本銀行は判断するのではないか。

第4は+0.1%と+0.2%の組み合わせとは、民間金融機関の気候変動対応投融資を、気候変動リスクへの対応度に応じて2段階に分け、より高次な投融資には+0.2%の付利、そうでない投融資には+0.1%の付利とするものだ。それを通じて、気候変動リスクの削減、地球温暖化対策により貢献する投融資を促す効果が期待できる。

しかし銀行が、気候変動対応投融資をこのように厳格に2つに分けることはかなり難しいだろう。そして、日本銀行がそれを厳格に審査するのもまた難しい。少なくとも、双方に相当の事務負担をかけることになってしまうだろう。気候変動関連で、先行き資産査定のレベルが向上してくればそれも可能となるだろうが、現状では難しいのではないか。そのため、付利は1段階となる可能性が高い。

以上の点から、現状で有力と考えられるのは、第2の+0.1%付利となるのではないか。

対象となる気候変動対応投融資の範囲は幅広く

中央銀行のマクロ金融政策は、銀行システムを通じて企業や家計の活動に間接的に影響を与えることが基本である。金融政策が個々の企業や家計の経済活動にどのような影響を最終的に与えるのかは、銀行の貸出判断などに委ねられるのである。

特定の業種、企業への資金の流れを政策として決めるのは、政策金融の役割であって、中央銀行の役割ではない。ところが、日本銀行が民間銀行の貸出先に影響を与える異例の政策を採用した。それが、2010年6月に導入を決めた成長基盤強化支援オペだった。気候変動対応投融資支援オペはこれと同様に、日本銀行が民間銀行の貸出先、投資先の選択に影響を与える異例の政策である。

ここで、オペの対象となる投融資の種類に厳しい基準を設け、絞り込めば、日本銀行が銀行の投融資先の選択をかなり規定することになる。しかし実際には、基準はかなり緩いものとなりそうだ。既に述べたように、気候変動対応関連の投融資については、資産査定のノウハウは確立されておらず、厳しい基準を設定すれば、銀行、日本銀行ともに業務負担が一気に高まる可能性があるからだ。成長基盤支援オペでも、日本の成長基盤の強化に資する産業として、19のタイプが例示されるなど、広範囲な業種をカバーする形、つまりかなり緩い基準が設定された。

日本銀行が気候変動対応投融資支援オペの導入を決める狙いは大きく3点あると考えられる。第1は、気候変動対策に力を受ける海外の中央銀行と足並みを揃えること、第2は、カーボンニュートラルの実現を掲げる政府との協調をアピールすること、そして第3は、金融システムの安定維持を視野に入れて、銀行の収益環境を支援する一種の補助金を提供すること、である。

第3の観点に基づけば、オペの対象を幅広くすることで事実上の銀行への補助金を拡大させることを、日本銀行は望むだろう。

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