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気候変動対応オペで日本銀行のリスク回避姿勢

2021/07/19

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緩い条件のもと対象となる銀行は広範囲となるか

7月17日の金融政策決定会合で、日本銀行は新たに導入する気候変動対応オペの骨子素案を公表した(コラム「気候変動対応への関与は日本銀行の使命に照らして妥当か:新型オペの骨子素案」、2021年7月16日)。

対外公表分では、「気候変動対応に資するための取り組みについて一定の開示を行っている先」が対象になる、と説明されていた。その時点では「一定の開示を行っている先」が何を意味するかは明らかでなかったが、その後の総裁記者会見での総裁の説明によると、これは、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)が推奨する気候関連の情報開示に取り組んでいる銀行を想定していることが分かった。

TCFDは金融安定理事会(FSB)が立ち上げた組織であり、2017年6月に公表した報告書で、企業等に対して気候変動関連リスクに関するガバナンス、戦略、リスク管理、指標・目標を開示することを求めている。その提言を受け入れる日本企業が増えている。

ただし、これをオペ対象の厳格な条件にすると、その条件を満たすのは、比較的規模の大きい銀行に限られてしまうだろう。しかし実際には、TCFDの提言を受け入れる予定がある、検討している、等といった比較的緩い条件で、日本銀行がオペへの参加を認める可能性があるのではないか。

対象が限られ、オペの規模が大きくならないと、気候変動リスクへの対応というオペの本来の狙いが実現されなくなってしまうためだ。

銀行の判断にある種「丸投げ」か

他方、バックファイナンスの対象となる投融資については、①グリーンローン/ボンド、②サステナビリティ・リンク・ローン/ボンド(気候変動対応に紐づく評価指標が設定されているもの)、③トランジション・ファイナンスにかかる投融資が考えられる、とされた。

ところで、何をもってグリーンローンとするか等は明確でない。総裁も、そうした分類(タクソノミー)がまだ世界的に確立されていないことを指摘している。

そうであれば、この枠組みは銀行自身の分類、査定、判断に任されることになる。その場合、基準は統一されずにばらばらなものとなる。グリーンローンの基準のあいまいさが相当残されることになるだろう。他方で、日本銀行はそれを厳しく審査しないとみられ、結果的に広範囲の資産が対象となるのではないか。

貸出先や発行体が、グリーンローン、グリーンボンドと偽り(グリーンウォッシュ)、それが日本銀行のオペの対象となってしまうリスクもあるだろう。日本銀行自身がそうしたリスクを負い、批判を浴びることを回避したいがために、日本銀行は貸出、投資の判断とともに、資産の分類、査定、判断などもオペ対象の銀行にすべて委ねる、いわば「丸投げ」する意図のようにも読める。

一方で、日本銀行自身がグリーンボンドを直接買入れることにはまだ慎重であることが、総裁記者会見で確認された。グリーンボンドの定義、分類、査定方法などが確立される前に日本銀行が買入れを始めれば、不正のグリーンボンドを買入れてしまい、日本銀行自身が強い批判を浴びる可能性や、市場や価格を歪めてしまうといった弊害を生むからだ。

タクソノミーが確立されていない現状では、日本銀行自身がグリーンボンドを直接買入れるにはまだ機は熟していないのである。同様の観点から、気候変動対応オペの実施についても、本来はまだ機は熟していないと言えるのではないか。

当面は、日本銀行自身ができる限りそうしたリスクを引き受けない形で、気候変動リスク対策を側面から支援していく、というのが日本銀行の基本戦略ではないか。

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