フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 中国の経済動向と金融政策は世界の先行きを示唆しているか

中国の経済動向と金融政策は世界の先行きを示唆しているか

2021/07/20

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

中国の4-6月期GDP成長率は事前予想をやや下回る

7月15日に中国の4-6月期GDP統計が公表された。実質GDPの前年比は+7.9%と、事前予想の+8.1%程度をやや下回った。また、1-3月期の同+18.3%から急減速している。ただし、「前年同期に新型コロナウイルス問題の影響で成長率が急減速したことの反動で今年の1-3月期の成長率は上振れた」、という側面が強い。実体的に中国の成長率が足元で急減速している訳ではない。

それでも、中国経済には足元で鈍化を示唆する指標が、GDP統計以外でも増えている。6月の製造業購買担当者指数(PMI)は50.9となり、業況拡大・縮小の分かれ目である50を1年4か月連続で上回ったものの、5月の51.0からやや低下し、4か月ぶりの低水準となっている。

中国の製造業に逆風となっている要因は、他国と共通している。世界の自動車のサプライチェーン(供給網)全体がそうであるように、中国の自動車メーカーも現在半導体不足に悩まされており、自動車製造業の指数は2か月連続で50を下回った。また、原油価格の高騰も、中小企業を中心に収益を圧迫している。

広がる成長鈍化の兆し

下振れているのは製造業の指数だけではない。6月の中国サービス部門および建設業の購買担当者景気指数(PMI)では、いずれも雇用指標が大幅に低下し、31都市の調査による失業率の改善は5月に失速した。

成長鈍化の背景には、いわゆるリベンジ消費が一巡し、個人消費の増加ペースが落ちていることが考えられる。コロナショックで落ち込んだ経済が急回復する局面は終わりつつある。

さらに、製造業PMIで新規輸出受注が低下し、先行きの輸出増加ペースの鈍化を示唆している。その背景に、海外での消費者行動の変化を指摘する向きもある。感染下では、巣籠り消費で高額商品の売れ行きが海外では後押しされたが、感染リスクの低下とともに、消費者は外出して飲食、旅行、アミューズメント関連等の消費により多くのお金を使うようになっている。その結果、中国からの輸出される消費財の売れ行きが落ちている面がある。

中国人民銀行は預金準備率引き下げで予想外の緩和バイアス

4-6月期GDP統計が公表された15日に、中国人民銀行は預金準備率を0.5%ポイント引き下げる措置を実施した。預金準備率の変更は、2020年1月6日に0.5%引き下げて以来のことである。通常、預金準備率の引き下げは、金融緩和を意味するものだ。

ところが、中国以外の中央銀行の間には金融緩和の正常化、金融引き締めを模索する動きが広がっている。足もとでは、7月14日にニュージーランド中銀が大規模資産買い入れの中止を決めている。米国では年内にも資産買い入れの減額(テーパリング)開始、早ければ来年中にも政策金利引き上げ、との観測が市場で広まっている。

米国で金融緩和の正常化、あるいは金融引き締めの観測が強まる背景には、経済活動が再開されるもとで、物価上昇率が高まっている、あるいは住宅価格の上昇率が高まっていること、などがあるだろう。中国でも物価上昇率、住宅価格の上昇率はやや高めではあるものの、米国と比べると状況はかなり異なっている。

中国経済・金融政策は世界の先行指標か

米国の6月分消費者物価は前年比+5.4%と、5月の同+5.0%からさらに加速した。これに対して、中国の6月分消費者物価は前年比+1.1%にとどまっている。米国の住宅価格(S&Pケースシラー)は4月に前年比+14.9%と、リーマンショック前の水準を上回っている。ところが、中国の6月新築住宅価格(主要70都市)は、前年比+4.7%にとどまっており、また前月の同+4.9%から低下している。

こうした状況の下では、預金準備率を引き下げて、銀行貸出を促しても、物価上昇リスクや住宅など資産価格の上昇リスクを高めることはない、と中国人民銀行は判断しているのではないか。

新型コロナウイルス問題発生後は、中国での動きはあらゆる面で他国に先んじてきた感が強い。それは、感染抑制、ワクチン開発、景気回復、ワクチン外交など他国支援、などである。

こうした中国の足元での経済活動の鈍化、物価・資産価格上昇リスクの抑制、金融政策の緩和バイアスが、やはり将来の他国の動向を先取りする先行指標となるのではないか。そうであるなら、米国を中心とする足元でのインフレ懸念、それを背景とする金融正常化の前倒し、等の金融市場の観測はやや行き過ぎている。今後はその修正が入る可能性がある、ということも考慮に入れておく必要があるだろう。

(参考資料)
"China’s Monetary Policy Slips a Gear Into Neutral", Wall Street Journal, July 13, 2021
"China’s Economy Flashes Hints of Weakness", Wall Street Journal, July 1, 2021

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn