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フォワードガイダンスを修正しハト派色を強めるECB

2021/07/26

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新フォワードガイダンスのもと政策金利の引き上げの時期はかなり先に

欧州中央銀行(ECB)は7月22日の理事会で、政策金利の先行きの方針を示す「フォワードガイダンス」を修正した。ECBは8日に公表した金融政策の戦略レビューで、物価目標をこれまでの「2%未満でその近傍」から「2%」に修正し、また物価上昇率の一時的な2%超えを容認する方針を示していた。物価目標が上下に対称的であることも確認された(コラム「欧米中銀のインフレ目標政策見直しとその課題」、2021年7月9日。

今回のフォワードガイダンスの修正は、これを反映させるという技術的な側面を持つ(コラム「ECBが次回理事会でフォワードガイダンスを修正へ」、2021年7月13日)。ただし、その修正は予想以上にハト派色が強いものであった。

ECBの従来のフォワードガイダンスは、「必要な限り債券を買い入れ、インフレ見通しが目標にしっかりと収れんしていると見るまで金利を現行の過去最低水準に維持する」となっていた。修正後のフォワードガイダンスは、「予測期間の終わりよりも十分早くに物価上昇率が目標に達し、予測期間中、その水準が安定的に維持される見通しとなるまで、政策金利は現状あるいはそれよりも低い水準が維持される。物価上昇率が一時的に緩やかに目標値を上回りうる」となった。

現時点では2023年のインフレ率は平均+1.4%と予測されている。これに照らすと、政策金利の引き上げの時期は、2024年以降のかなり先になることを、新たなフォワードガイダンスは意味している。

政策方針はFRBに近いが実際の政策見通しには差

フォワードガイダンスの修正は全会一致の決定ではなかったという。ドイツなど、緩和バイアスの強い修正に反対した国があったからだ。

金融政策の戦略レビューでは、物価上昇率が目標値を下回った後には、それを穴埋めするように物価上昇率の上振れを容認するという米連邦準備制度理事会(FRB)の方針に近いものをECBは採用しない、との主旨の説明もあった。ただしそれは、反対するドイツなどのメンバーへの配慮の性格が強かったのではなかったか。今回のフォワードガイダンスの修正も考慮に入れれば、ECBの物価目標政策の新たな方針は、FRBの方針に近いものと言えるだろう。

ところが似たような方針の下であっても、先行きの金融政策についての姿勢は、FRBとECBとの間で大きく異なっている。FRBは、資産買い入れ減額(テーパリング)の議論を次回の米公開市場委員会(FOMC)で本格化させ、秋にもその方向性を正式に示す可能性がある。

さらに、物価上昇率が2022年、2023年と2%の物価目標値近傍となる見通しの下で、早くも2022年中に政策金利の引き上げを示唆する発言もメンバーの中で増えてきている。両者の差は、政策方針の差というよりも、足元での経済の回復力、物価上昇率の違いによるだろう。

各国での金融政策姿勢の差は極めて大きい

新型コロナウイルス危機対応の緊急資産買い取り制度(PEPP)については、買い入れペースや2022年3月末までとする期限を今回据え置いた。新しい経済予測が示される9月の理事会で買い入れペースを見直す可能性がある。しかし仮に来年3月での終了が決定されても、それは金融政策の正常化というよりも、危機対応の一巡という位置づけだ。

金融当局のスタンスの違いは、米欧間だけでなく世界的にみられる現象である。既に見たように、FRBは金融政策の正常化を意識し始める一方、ECBは緩和の継続をアピールしている。他方、日本銀行の政策姿勢は当面変化しそうもない。

また今月は、ニュージーランド中銀が資産買い入れの停止を決める一方、中国では、人民銀行が預金準備率の引き下げという金融緩和的な措置を実施しているなど、まさに異常なほどばらばらである。その背景には、コロナ問題の影響によって、国毎に経済のばらつきが極めて大きいことがあるだろう。

各国間での経済情勢の差は、このように金融政策の差をもたらし、それは各国間での資金フローをより不安定にさせるだろう。

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