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新エネルギー基本計画原案の公表

2021/07/26

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2030年度でも化石燃料による発電比率41%、石炭火力発電は19%

経済産業省は21日に、新しいエネルギー基本計画の原案を発表した。最も注目を集める2030年度の電源構成を中心に、その内容は事前に伝えられていた通りであり、サプライズはなかった(コラム「新たな電源構成の目標数字は固まるも、実現可能性は見えてこない」、2021年7月21日)。

2030年度までにCO₂排出量を46%削減するという政府目標を達成するために、再生可能エネルギーによる発電の比率を一気に引き上げる計画であるが、それを達成するための具体的な施策の裏付けが十分に示されていない、数字合わせとなった感が強い。日本における地球温暖化対策の難しさを、改めて浮き彫りするものだろう。

2030年度の総発電量に占める再生可能エネルギーの比率は36~38%と現行計画の22~24%から大幅引き上げとなり、再生可能エネルギーの主力電源化が明確に目指されている。また原子力は20~22%と現行の計画の比率が維持された。CO₂を排出しない両者の比率の合計は58~62%と6割に達する。CO₂を排出しない水素・アンモニアの燃焼による発電の比率を1%とすることが初めて明記されたが、それはわずか1%に過ぎず、また技術面やコスト面でクリアしなければならない点も多く残されている。

CO₂を排出しない発電の比率が6割ということは、CO₂排出を伴う化石燃料を用いた発電に、2030年度でもまだ4割(41%)依存するということを意味する。原案には、「石炭は化石燃料のなかで最もCO₂排出が大きいが、低廉で保管が容易。安定供給や経済性に優れた重要なエネルギー源」と明確に位置付けられた。経済性に反してでもCO₂排出量の削減を進めることが各国に求められている現状に照らせば、化石燃料による発電に関するこうした日本の姿勢は、先進各国からの理解を得ることは容易ではないだろう。

特に2030年度で石炭火力発電の比率を19%とする計画には、他国からの強い批判を受ける可能性が高い。フランスは2022年、英国は2024年までにそれぞれ石炭火力を廃止する目標を掲げている。

「内患外憂」の状況に

原子力の発電比率を20~22%まで引き上げるには、電力会社から申請された27基のすべてを稼働させる必要があるが、現時点での稼働が10基にとどまる中、あと9年でそこまで引き上げる方策についても全く見えていない(コラム「新たな電源構成の目標数字は固まるも、実現可能性は見えてこない」、2021年7月21日)。

原案では原発について「原子力は安全を最優先し、可能な限り依存度を低減する」という従来の方針を維持した。また「原子力産業では30年までに、国際連携を活用した高速炉開発の着実な推進、小型モジュール炉技術の国際連携による実証、高温ガス炉における水素製造に係る要素技術確立などを進める」と記述されている。国際連携の枠組みのもとではあるが、原発新設の検討の可能性を示唆しているようにも読める。

2030年度までにCO₂排出量を46%削減するという政府目標を達成するための、数字合わせのような新しいエネルギー基本計画で、果たしてその実行可能性が11月のCOP26など国際社会の場で疑問視されることはないのか、石炭火力発電の利用継続の方針が国際社会の強い批判に晒されることがないのか。一方、原子力を用いた発電の拡大については、その安全性の観点から国内で強い反発を受けることが必至である。

まさに「内患外憂」であり、日本の地球温暖化対策、エネルギー政策は、漂流し始めているようにも見える。

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