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コロナ禍でも予想外に改善した2020年度銀行収益と残された課題

2021/08/02

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「コロナ特需」に支えられた銀行決算

日本銀行は年2回、金融システムレポート(FSR)を発行しているが、その別冊として、2020年度の銀行決算をまとめた「2020年度の銀行・信用金庫決算」を7月28日に公表した。

大手行の2020年度当期純利益は前年比+1.5%と3年ぶりの増加となった。予防的引き当てによる信用コストの増加は利益を下押ししたが、貸出増加や米金利上昇を受けたヘッジ関連損益の改善などが収益に貢献した。地域金融機関については、地域銀行の当期純利益は前年比+2.1%、信用金庫の当期純利益は前年比+14.0%の増益となった。増益は地域銀行では5年ぶり、信用金庫では6年ぶりだ。コロナ特需による貸出増加、経費の減少、株式関係損益の改善が増益に貢献した。

新型コロナウイルス問題発生直後には予想もつかなかったことだが、2020年度の銀行の収益環境は、問題が生じる前の前年度から改善した。ただしその背景には、企業支援のための政府の実質無利子無担保融資制度などによって、貸出量が相当増えたという、いわば「コロナ特需」によるところが大きい。

他方で利ザヤは縮小が続いていることから、持続的な収益環境の改善は見られてない。地域金融機関については、役務取引等利益の拡大や、経費率の低下も、まだ道半ばといった感が強い。

財務の健全性は維持される

有価証券関係損益では、債券関係損益は大手行では益超幅が縮小、地域銀行では損超となった。大手行では年度末にかけて売却損を計上したこと、地域銀行では益出しを抑制したことが背景にある。他方、株式関係損益では、大手行はおおむね横ばい、地域銀行では、売却益の計上によって益超幅が拡大した。

信用コストは大手行、地域金融機関ともに増加した。大手行は予防的引き当てを拡大したこと、地域金融機関では、貸出増加に伴う一般貸倒引当金繰り入れが増加したことが背景にある。

与信残高の債務者区分を見ると、大手行、地域金融機関ともに「その他要注意先」の比率がやや高まった。ただし不良債権比率は、幾分上昇しつつもなお低水準で推移している。

国際基準行のCET!比率、自己資本比率、国内基準行の自己資本比率は、内部留保の蓄積などからいずれも上昇している。

2021年度見通しも良好だが貸出利鞘の縮小は継続

このように、コロナ禍のもとでの銀行の収益環境、並びに財務環境は予想外に良好であった。さらに、各行の2021年度の収益計画も良好なものとなっている。大手行は、信用コストの減少を主因に、前年度比+10%強の業務純益の増加を見込んでいる。地域銀行は、役務収益の増加や信用コストの減少を背景に、前年度比+5%程度の増益を見込んでいる。

しかしながら、銀行の収益性については、依然として逆風が吹いている状況には変わりはない。2020年度は、大手行、地域銀行ともに貸出利鞘の縮小が続いた。大手行は貸出利回りの低い大手企業向け貸出が増加したことがその一因である。実質無利子無担保融資では、銀行の貸出金利は、通常の貸出よりも高めであったと考えられる。そうした追い風にも関わらず、貸出利回り全体の低下傾向には全く歯止めがかからなかったのである。大手行では、従来安定していた国際業務部門でも、貸出利鞘は縮小している。

役務取引等利益については、大手行ではシンジケート・ローンの手数料などで改善したが、地域銀行では縮小傾向が続いた。投信販売、保険販売で手数料の改善が見えない一方、10月以降の銀行間送金手数料、顧客送金手数料の低下で、決済手数料収入はこの先さらに減少することが見えている。

新型コロナウイルス問題では、予想外の安定性を見せた銀行の収益、財務環境であるが、貸出利鞘の回復や非資金利益の拡大を通じた、ビジネスモデルの転換を伴う根本的な収益性の改善はまだ見えてこない。ただ、地域銀行で人件費、物件費を中心に経費の減少が続いていることは、将来の収益性改善につながる可能性があり、引き続き注視していきたいところだ。

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