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対象拡大がなお続く緊急事態宣言

2021/08/25

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宣言の対象拡大で、経済損失額は追加で4,200億円

政府は8月17日に、茨城県、栃木県、群馬県、静岡県、福岡県、京都府、兵庫県の7府県を8月20日から第4回緊急事態宣言の対象に新たに加える一方、8月31日までとされていた緊急事態宣言の期限を9月12日まで延長することを決めた。それからわずか1週間で、再び対象区域が拡大される。予想以上の感染拡大で、政府の対応が後手に回っている印象だ。

政府は、緊急事態宣言の対象に新たに北海道、宮城、岐阜、愛知、三重、滋賀、岡山、広島の8道県を加える方針だ。8月27日から始め、期限は9月12日までとする。この政府方針は、8月25日午前の「基本的対処方針分科会」で承認された。同日午後に正式に決定される。

これで対象区域は21都道府県にまで広がる。個人所得で見ると、その構成比率は全国の79.1%と約8割に相当する。対象区域は全国ベースに近付いてきたのである。

今回の拡大措置が実施されると、第4回緊急事態宣言による経済損失は4,200億円増加する計算だ。現時点での対象分と合計すれば、第4回緊急事態宣言による経済損失は計3.84兆円となる(図表1)。これは年間の名目GDPの0.70%に相当し、失業者を15.2万人増加させる。

この経済損失は、同時期に開催される東京五輪(オリンピック・パラリンピック)の経済効果1.68兆円の2.3倍に達することになる。

(図表1)第4回緊急事態宣言の延長・拡大の経済効果

7-9月期の成長率はゼロ近傍に

拡大後の第4回緊急事態宣言は、それ自体は7-9月期の実質GDP成長率を年率換算で10.7%押し下げる計算だ。

しかし、第3回緊急事態宣言によって既に4-6月期には経済損失が生じている。他方、7-9月期には東京五輪のプラスの経済効果が加わる。東京五輪と緊急事態宣言の影響のみを取り出して計算すると、それらは7-9月期の実質GDP成長率を4-6月期比年率で+2.8%押し上げる計算となる(図表2)。

7-9月期には、輸出の増勢が顕著に低下することが予想される。さらに、グローバル・サプライ・チェーンの混乱の影響で自動車が減産に追い込まれることで、同期の実質GDP成長率は前期比年率1.31%押し下げられると試算される(コラム「グローバル・サプライ・チェーンの混乱で国内自動車は一時減産へ:4,457億円の経済損失」、2021年8月23日)。

これらから、7-9月期の実質GDP成長率は、現在ほぼゼロ近傍のペースにあると考えられる。

(図表2)東京五輪、緊急事態宣言が四半期GDP成長率に与える影響

全国ベースへの拡大にも現実味

この先、第4回緊急事態宣言の対象区域がさらに拡大される、あるいは期間が延長されれば、7-9月期の実質GDP成長率は2期ぶりにマイナスとなる可能性がより高まるだろう。

実際、対象区域の拡大や期間の延長の余地は十分に残されている状況だ。仮に9月1か月間は全国ベースで緊急事態宣言が発令されるケースを想定すると、その分だけで経済損失は6兆円を超える計算だ。第4回緊急事態宣言全体では、経済損失は9兆円程度と過去3回の宣言の経済損失を大きく上回る最大規模となる。その場合には、7-9月期の成長率は大幅なマイナスとなることも覚悟する必要が出てくる。そして、欧米など海外と比較した場合の国内経済の回復の遅れは、より際立つことになるはずだ。 

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