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米下院は3.5兆ドルの予算決議を可決:ナローパスに陥るバイデン政権の経済政策

2021/08/27

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予算決議は民主党単独で法案を通すための段取り

米下院は24日に、環境や福祉分野に10年間で3.5兆ドル規模を投じる予算決議を賛成多数で可決した。上院では10日に既に可決されている。だからといって、巨額の経済対策の実施が決まったわけではない。予算決議は予算編成方針に過ぎず、具体的な関連法案作りはこれからである。

8月11日には上院で、1兆ドル規模のインフラ投資法案が超党派で可決された。これは、バイデン政権が掲げる政策のうち、共和党の賛成が得られる部分だけを切り離したものである。そこには、バイデン政権が当初示した2兆ドル規模のインフラ投資計画にはあった気候変動対策、財源としての法人増税が含まれていない。それらの施策に、民主党左派が強く望む子育て・教育支援策、富裕者増税などを加えたものが、今回の予算決議である。共和党が強く反対するばかりの施策をかき集めたものであるため、当然のことながら共和党の支持を得ることはできない。これに基づく法案は、民主党が過半数の議席を制する下院は通っても、議席が拮抗する上院は通らない。

そこでバイデン政権は、3.5兆ドル規模の対策は、民主党単独で成立させる方針である。それと共和党の支持も得て成立させることができるインフラ投資法案と組み合わせることで、選挙公約であった経済政策を実現させる戦略なのである。

上院は、共和党50議席、民主党50議席の同数だ。米上院では法案審議において長時間の演説などで採決の遅延・阻止を狙う議事妨害(フィリバスター)が認められており、フィリバスター打ち切りを確保するには60票が必要となる。この法案で10名の共和党議員の支持を得ることは不可能である。そこで、バイデン政権は、財政調整(reconciliation)措置を用いて民主党単独で成立させる戦略だ。これは、上院の多数派が、優先順位が高いと見なす法案を強引に通過させるための仕組みだ。単純過半数での採決が可能となる。つまり民主党は50人と議長のハリス副大統領の1票で法案を可決できるのである(コラム「米上院がインフラ法案可決も先行きはなお流動的」、2021年8月12日)。予算編成方針である予算決議の可決は、この財政調整措置を用いるのに必要な段取りとなる。

バイデン政権の経済政策はナローパス(隘路)に陥っている

従って、予算決議の可決は、民主党単独で3.5兆ドル規模の対策を成立させることができる条件が一つクリアされたことを意味するものだ。しかし、単純過半数で民主党は法案を可決できるとしても、それは簡単なことではない。民主党は一枚岩ではないからだ。上院の民主党議員が一人でも反対に回れば、法案は成立できないのである。

予算決議は民主党の左派の意見を反映して左派色の強い政策を盛り込んだ結果、民主党の中道派・穏健派には不満が高まっている。中道派・穏健派は1兆ドルのインフラ投資法案を強く支持する一方、3.5兆ドルの法案については、財政を膨張させることやインフレを招くこと、増税が経済を悪化させることなどを問題視している。

一方、ペロシ下院議長(民主)は、上院が3.5兆ドルの関連法案を通過させるまでインフラ法案を採決しない意向を示しており、インフラ投資法案を優先する中道派・穏健派をけん制する。民主党の中道派、穏健派の中で最も影響力を持つのが、マンチン上院議員だ。同議員は「大恐慌対応のような支出を続けることは無責任だ」、「政府の負債膨張はかえって米経済の足を引っ張る」と主張している。

こうした中道派・穏健派の姿勢を踏まえると、3.5兆ドルの法案は、今後かなり減額されることは避けられないだろう。現時点では、最終的な法案の姿はまだ見えてこない。

バイデン政権の経済政策は、共和党、民主党(急進)左派、民主党中道派・穏健派の3者に配慮しなければ実現できない、まさにナローパス(隘路)に陥っているのである。

(参考資料)
「米看板政策具体化へ攻防」、2021年8月26日、日本経済新聞
「かりそめの超党派、インフラ投資法案 米議会対決の秋へ」、2021年8月12日、日本経済新聞電子版
「米国:環境・福祉に385兆円 米下院 予算編成方針可決」、2021年8月26日、毎日新聞
「米下院 385兆円予算決議案可決」、2021年8月25日、東京読売新聞

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