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9・11後の米国取引所の頑健性強化とサイバーテロの新たな脅威

2021/09/15

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同時多発テロ事件後に取引所の危機管理体制は強化

2001年の米同時多発テロ事件「9・11」から20年が経過した。その際に注目を集めた問題の一つが、米国の金融システムの頑健性だった。実際、同時多発テロは、金融システムの物理的破壊に対する脆弱性を大いに浮き彫りにしたのである。

ワールドトレードセンターのツインタワーが倒壊し、2,000人余りの犠牲者が出る中、金融業界にとっては欠かすことができない通信システムも破壊された。それも影響して、米国の株式市場は4営業日にわたり閉鎖された。これは、1933年以来最長だった。ニューヨーク証券取引所(NYSE)の建物に被害はなかったものの、取引所への電話回線やデータリンクの多くが切断されたため、ワールドトレードセンタービル跡地「グラウンド・ゼロ」の復旧作業が続いている中、NYSE関係者はトレーダーやその他の人員をフロアに呼び戻すのをためらったのである。さらに、NYSEが次のテロの攻撃対象になる、との懸念も強かった。また、債券市場は2日間ほど閉鎖され、シカゴの先物取引所も一時閉鎖された。

この経験を受けて、証券会社や取引所は危機管理体制、事業継続体制の強化に動いた。彼らは、基幹システムの多くをウォール街があるダウンタウンから移動させた。また規制当局は、災害時にも市場が営業できるよう、各企業に追加点検の実施を求めたのである。

さらに取引所ではその後フロア取引がなくなったことで、テロなどの攻撃を受けにくくなった。2001年当時、NYSEのフロアには何千人ものトレーダーが働いていたが、今では、NYSEをはじめとする証券取引所の取引は電子化が進み、ニュージャージー州にある厳重に警備されたデータセンターで処理されている。

株式取引のバックアップ体制が進んだ

取引所の危機管理体制、事業継続体制が強化された結果、新型コロナウイルスの感染拡大に見舞われ、またリモートワークが一気に広がったが、株式市場は営業を継続し、基幹システムもほとんど不具合なく稼働した。災害によって株式市場が閉鎖されたのは、2012年の大型ハリケーン「サンディ」で2日間閉鎖されたのが最後だ。

取引所が外的ショックへの耐性を強めたのは、それ以外にも理由がある。2000年代半ばに行われた規制改革により、NYSEとナスダックによる寡占状態が解消され、それ以外の多くの取引所での取引が拡大したことも一因だ。

NYSEとナスダックに上場している株式は最大16の取引所で取引されている。そのため、NYSEとナスダックの取引が仮にアクシデントで停止した場合でも、他の取引所がバックアップとして機能する。20年前には、NYSEに障害が発生すれば、NYSEに上場する株式はほぼ取引できなくなっていたのである。

新たにサイバー攻撃の大きな脅威

このように、過去20年間に米国の取引所の頑健性は高まったが、逆に20年前にはあまり重要でなかった新たな脅威に今は晒されている。それがサイバー攻撃のリスクである。

同時多発テロの際には米証券取引委員会(SEC)の委員長であったハーベイ・ピット氏は、「生活のデジタル化は一般的には大きな恩恵をもたらしたが、システムへのハッキング能力という点では、さらに大きな破壊の種をまいてしまった」、「それは現在、9・11に匹敵するものだ」と警鐘を鳴らしている。

また、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は4月に、「サイバー攻撃は2008年の金融危機を引き起こしたさまざまな要因を上回る、金融システムにとって最大のリスクになった」と述べている。

2001年の同時多発テロの際には、米国の経済・金融の中心地に打撃を与える狙いで、ニューヨーク、そしてダウンタウンの金融街を、テロリストらは攻撃の対象に選んだ。しかし、テロリストらの攻撃対象、攻撃手段も時代とともに変化している。今やサイバーテロの脅威への対応が、米国の取引所、そして金融システムの安定にとって欠かせなくなってきている。

(参考資料)
"After the 9/11 Attacks, Wall Street Bolstered Its Defenses", Wall Street Journal, September 10, 2021

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