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NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 恒大の株取引停止。中国政府は海外投資家にどの程度配慮を示すのか

恒大の株取引停止。中国政府は海外投資家にどの程度配慮を示すのか

2021/10/05

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ドル建て債の利払いがなされず沈黙が続く

10月4日の香港市場では、経営危機に直面する中国恒大集団(チャイナ・エバーグランデ・グループ)の取引が突如停止となった。理由は不明であるが、当局の対応についての市場の疑心暗鬼をさらに強めることになっている。流動性不足が深刻な恒大集団の保有株売却と関係しているとの見方がされている。

ところで、恒大集団のドル建て債の利払い不履行が続いている。9月23日に期限を迎えた8,350万ドル(約93億円)のドル建て債の利払いは履行されなかった。また29日に期限を迎えた4,500万ドルの利払いも履行されなかったのである。いずれについても、中国恒大集団は沈黙を続けている。

ただし、恒大集団の未払いが正式にデフォルト(債務不履行)の事象に相当すると判断されるまでには、30日の支払い猶予期間(グレースピリオド)があるため、すぐにデフォルトとはならない。30日の猶予期間が切れるまでの、中国恒大集団そして中国政府の対応が、世界の金融市場の大きな関心となっている。

他方、これとは別に、恒大集団が保証している会社のドル建て債2.6億ドルの償還期限が10月3日であった。今のところ償還されてない模様だが、これについては5営業日の支払い猶予しかない。今週中に償還、あるいは債券保有者との間で何らかの合意が得られなければ、恒大集団はクロスデフォルト(債務者がある1つの債務の返済を履行できずにデフォルトとなった場合、その債務者が負う他のすべての債務に関してデフォルトとみなされること)となるリスクがある。正念場は今週かもしれない。

恒大集団のドル建て債を保有する海外の有力投資家

モーニングスターによると、中国恒大集団のドル債を保有する海外の資産運用会社には、ブラックロック、フィデリティ、UBS、ロイヤル・バンク・オブ・カナダ傘下のブルーベイ・アセット・マネジメント、アシュモア・グループなど大手が含まれている。

中国恒大集団は190億ドルのドル建て債を発行しているが、このうちUBSが約2億8,300億ドル、アシュモア・グループは1億4,600万ドル保有しているという。他方、HSBCと、運用会社TCWはそれぞれ9月と8月にドル建て債を売却したという。またクレディ・スイスも、中国恒大のドル建て債をすべて売却したとフィナンシャル・タイムズ紙が報じている。

中国恒大集団が海外で発行したドル建て債の大半には、支払い不履行に関する信用契約の条項がある。債券保有者は30日の猶予期間が過ぎたら、債券の受託者である米金融大手シティグループ傘下シティコープ・インターナショナルに書面を送付することで、デフォルトを宣言することができる。

利払いが履行されていない中国恒大のドル建て債の価格は、デフォルトリスクを織り込んで、足元で額面1ドル当たり0.3ドルを割り込んで取引されている。

中国恒大集団の債務でドル建て債の比率は6.3%

中国恒大集団のドル建て債を保有する海外投資家は、中国政府がどのような着地点を考えているかに注目している。中国政府、人民銀行は、中国恒大集団の経営危機の問題で、地方政府や銀行に対して、事態の収拾に向けた協力を求め始めている。こうした動きは、海外債権者の利益に配慮した対応もなされるのでは、との期待を高めている。

一方で、中国恒大集団のサプライヤーや住宅購入者といった中国国内での債権者と比べて、海外債権者の利益を守ることの優先順位が、中国政府にとって高くないことも彼らは十分に理解している。同社は約3,040億ドル相当(約33.7兆円)の債務を抱えているが、このうちドル建て債は190億ドルで、その比率は債務全体のわずか6.3%に過ぎない。

猶予期間が切れるまでの30日間が試金石に

しかし、中国恒大集団のドル建て債が無秩序なデフォルトとなれば、同様にドル建て債を発行する中国の不動産会社、あるいはその他の業種の企業にも、資金調達面で大きな打撃となってしまう。国際決済銀行(BIS)によると、中国の非金融部門は5,450億ドルものドル建て債務を抱えており、リーマン危機前から15倍も増えている。

そのため、優先順位は高くないとしても、海外のドル建て債について、中国政府が債務リストラの交渉に乗り出してくることを、海外投資家は期待して待っているのである。ドル建て債の利払いや償還は来年にかけても続くが、当局の姿勢を占ううえでは、当面の対応が重要だ。

その対応は、この先、中国経済、企業が成長を続けていく中で、海外からの資金調達がどの程度重要であるかについての中国政府の認識を推し量る試金石ともなるだろう。

(参考資料)
"Evergrande Bondholders Mull Next Steps in Wake of Missed Payment", Wall Street Journal, September 29, 2021
"Markets Await Outcome for Opaque Bond Tied to Evergrande", Bloomberg, October 3, 2021
「中国恒大問題、日本型か米国型か 世界巡る過剰マネー-金融PLUS」、2021年9月28日、日本経済新聞電子版
「ブルーベイ・ブラックロック・アシュモア・UBS、中国恒大にエクスポージャー」、2021年9月27日、ロイター通信ニュース

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