フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 資源価格高騰、物価高とスタグフレーションはポストコロナ経済の産みの苦しみか

資源価格高騰、物価高とスタグフレーションはポストコロナ経済の産みの苦しみか

2021/10/13

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

感染問題を受けた消費行動の変化が物価上昇圧力に

原油など資源価格の高騰、あるいは幅広い分野で価格上昇率上振れ傾向が続いており、それらがコロナショック後の世界経済の回復に水を差す可能性が高まっている。その程度は未だ不確実ではあるが、来年にかけて世界経済は、インフレ率の上振れと成長鈍化・景気減速が共存する「スタグフレーション」の様相を一時的に強めることが見込まれる。

予想外の物価上昇率の上振れは、新型コロナウイルス問題を受けた個人の消費行動の変化によって引き起こされた、という側面が強いように思われる。例えば、個人は感染リスを警戒して外食、旅行、教養娯楽サービスなど対人接触型サービスへの消費を減らす一方で、巣籠り消費の傾向を強める中、家での食事を増やし、また家具、家電、日用品、ネットショッピングなどへの支出を増やしている。

日本銀行が10月11日に公表した「生活意識に関するアンケート調査(2021年9月)」によると、1年前と比べて支出を増やしたものとして挙げられた上位4項目は、食料品(30.3%)、家電(21.3%)、洗剤・雑貨など日用品(13.1%)、自動車(12.7%)となっている(3つまでの複数回答。以下同様)。他方、1年前と比べて支出を減らしたものとして、上位4項目は外食(42.5%)、旅行(41.8%)、衣服・履物類(25.5%)、遊園地・映画館など教養娯楽サービス(14.6%)である(図表)。


(図表)個人消費行動の変化



新型コロナウイルス問題を受け、日本の消費者は対人接触型サービスへの支出を大きく減らす一方、モノへの消費を増やしている。他国でも同様の傾向が見られているはずだ。

需要が高まった家電、日用品、自動車などの業種では需要に供給が追い付かずに、需給ひっ迫から価格が上昇する。モノを作る製造業の生産活動拡大は、原材料や電力への需要を高め、足元での商品市況上昇、特に原油などエネルギー関連の価格高騰をもたらしている面があるだろう。

さらに、感染リスクによって運転手など物流に携わる労働力の確保が難しく、それが供給制約となって、製品需給のひっ迫とともに人件費も上昇している。人件費の上昇が物流コストを高め、それがエネルギー関連を含めて多くの製品に価格転嫁されているのである。

新たな産業構造と新たな価格体系の均衡に移行

こうして考えてみると、世界で進む資源価格の高騰、物価上昇率の上振れは、新型コロナウイルス問題をきっかけに生じた個人の消費行動の変化と、それが引き起こす産業構造の変化の移行期に生じる、いわば「生みの苦しみ」とも言えるのではないか。

感染リスクが低下していけば、個人の消費行動も一部は元に戻るだろうが、完全にはコロナ前に戻らず、それがコロナ後の新しい経済、新しい産業構造を作るだろう。感染リスクや規制措置が長期化した国ほど、個人の消費行動の変化が定着しやすく、やや長い目で見れば産業構造の変化が大きくなりやすい。日本はその中の一つだろう。

価格上昇や賃金上昇によって、企業の生産活動や労働者は新たに消費が傾けられた産業へと移っていき、それが需給のひっ迫傾向を徐々に解消していく。いわゆる価格メカニズムが、いずれ需給を一致させることになる。その結果、資源価格の高騰、物価・賃金上昇率の上振れも解消されていく。そこに、新たな産業構造と新たな価格体系の均衡が生まれるのである。

新型コロナウイルス問題に端を発するスタグフレーション的状況

しかし実際には、その新しい均衡になかなか移行できずに、需給ひっ迫と物価・賃金上昇率の上振れが長引いているのが現状である。それは、感染リスクが残る中、労働供給の制約が続いていることや、消費者の需要増加が一時的であることを警戒して、企業が生産増加を十分に進めないことなどが背景にあるのではないか。

その結果、物価上昇率が長引き、それが消費者の需要を抑えるという縮小均衡的な動きが出始めているのが現状だろう。それこそが、新型コロナウイルス問題に端を発するスタグフレーション的状況なのである。そうした傾向がどの程度強まるのかは、感染リスクが継続する長さや生産資源の移動の柔軟性などによって決まり、国ごとのばらつきは大きいのではないか。

価格調整のダイナミズムを欠き、また、企業や労働者の流動性が低い日本は、新たな産業構造、新しい均衡への移行に時間がかかり、それが、潜在的需要が満たされない状態が続くことで、経済の回復を遅らせよう。

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn