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ヒートマップは金融過熱リスクを示したか:日銀金融システムレポート

2021/10/21

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日本銀行は3つのリスクを指摘

日本銀行は21日に、半期に一度の金融システムレポート(2021年10月)を公表した。金融システムの安定維持の観点から日本銀行が強調したのは、第1に、信用コストの上昇リスク、第2に、有価証券投資関連損益の悪化リスク、第3に外貨資金調達の不安定化リスク、の3つのリスクだ。

第1の信用コストの上昇リスクについては、実質無利子無担保融資の利払いや返済が今後増えてくる中で、感染症の影響が大きい対面型サービス業や、感染省の拡大以前から財務基盤がぜい弱であった企業向け融資で信用リスクが高まる可能性を指摘している。

第2の有価証券投資関連損益の悪化リスクは、前回の金融システムレポートでの分析を拡大した結果、投資ファンドなどの行動により、国際金融市場で生じた市場性ショックが日本の金融機関の有価証券ポートフォリオに与える影響が増幅されるリスク、影響が広範囲な金融機関に同時に及ぶリスクを指摘している。

第3の外貨資金調達の不安定化リスクについては、市場環境が急変する局面では、日本の金融機関の外貨調達にストレスが高まるリスクがあることから、決済性リスク管理の高度化、決済性預金の獲得、市場調達における調達先の分散などの取り組みをさらに進める必要があると指摘している。

金融機関にもっと注意喚起を

他方、読者の大きな関心を引いたのは、金融面での不均衡のリスクを早期に把握する観点から毎回示されているヒートマップで、「赤」が前回の14指標中4指標から今回は5指標に増えたことだ。「赤」は、トレンドから一定程度以上、上方に乖離したことを示している。昨年4-6月期にも「赤」は5つとなったが、それは80年代末から90年代初めのバブル期以来である。

前回調査で「赤」となったのは「M2成長率」、「総与信・GDP比率」、「家計向け貸出の対GDP比率」、「不動産業向貸出の対GDP比率」の4指標であったが、今回はそれに「企業向け与信の対GDP比率」が加わった。

これについて日本銀行は、コロナ問題を受けた実質無利子無担保融資制度など、積極的な支援策が与信を拡大させる一方、コロナ問題を受けて分母の名目GDPが縮小したことが、多くの指標の比率を押し上げており、金融活動の過熱感を表すものではない、と説明している。

しかしそうした説明は、やや丁寧さを欠いているようにも感じられる。前述の信用コストの上昇リスクでも説明されたように、経済活動に比して過剰に提供された実質無利子無担保融資は、返済期限を迎える中で信用コストの上昇につながり、プロパー融資での銀行の不良債権増加につながり得るだろう。また、コロナショック直後と比べれば名目GDPは回復してきており、その中で名目GDPを分母として計算される多くの比率が上振れたことは見逃せない。

また、14指標のトレンドからの乖離を加重平均することで一つの指標に集約した「金融ギャップ」は上昇傾向を辿っており、依然マイナスの領域にある、実体経済のバランスを示す「需給ギャップ」との乖離は大きい。これは、経済活動と金融環境とのアンバランスが生じていることを示唆している。

80年代末のバブル期にも、その直前には「金融ギャップ」と「需給ギャップ」との乖離は大きく広がっていた。足もとの乖離はその時以来の水準とも見える。日本銀行は、ヒートマップに基づいて、こうした点についてもっと強い警鐘を鳴らし、金融機関に注意を喚起して欲しい。

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