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中国金融業界への統制強化で金融の闇にメス

2021/10/22

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金融機関と企業との近すぎる関係を探る

中国恒大集団の経営危機も引き金となり、中国政府は金融機関への統制強化に本格的に乗り出す。IT業界、教育産業、不動産業界などに対して行われてきた政府の統制強化は、中国経済の生命線ともいえる金融業界にまでいよいよ及んできたのである。

中国共産党機関紙・人民日報が14日に報じたところでは、10月に入って共産党の汚職摘発機関である中央規律検査委員会が、汚職特捜チームに当たる「巡視組」を大手国有銀行など金融分野の25機関に対して派遣した。彼らは次々と家宅捜索し、投融資および規制関連の記録を確認して、民間企業に関連する特定の取引や決定がどのように行われたかについて回答を求めたという。

国有銀行や投資ファンド、そして金融規制当局が、民間企業と近づき過ぎていないかどうかに焦点が当てられるようだ。特に、不動産大手の中国恒大集団、配車サービス企業の滴滴出行、フィンテック企業のアント・グループなど、政府が最近標的にしてきた大手企業に対して、金融機関が巨額融資に走った実態が探られる。中国人民銀行(中央銀行)や銀行・保険・証券の規制当局も、企業の監督を怠ったり、規制対象である業界関係者と親密になり過ぎたりした形跡がないかどうか、追及を受けることになるという。

調査の結果、不適切な取引を行った疑いのある個人は、党による正式調査を受け、後に起訴される可能性がある。また、不適切な取引にかかわったと判断された企業も処分されるという。

調査の結果を踏まえ、国有の大手金融機関について幹部の報酬削減の是非も決定される見通しだ。金融セクターの報酬が他の産業に比べて高過ぎる、との問題意識が当局にある。

政府内の権力闘争も関係か

米ウォールストリートジャーナル紙は、今回の動きを、中国政府内での権力闘争の構図から読み解いている。金融業界は、王岐山・国家副主席の権力基盤として知られている。王氏は長年にわたって国有金融機関の要職に、自分に近い人物を据えてきた。

王氏は習政権の1期目に行った反腐敗運動で旗振り役を務めたが、その際には、自身が深く関わる金融業界は調査の対象から外したという。しかし、国有銀行が一部の高成長企業に積極的に融資したことも一因となり、その後、中国の金融リスクは増大してしまったのである。そこで、習近平国家主席は長年の課題である金融業界への介入、汚職摘発を始めたのである。一方、長年の側近が賄賂の受け取りで起訴されるなど、王氏の影響力には足元で陰りが見えてきた。そうした政府内での権力バランスの変化も、金融機関への統制強化が始められた背景にあるようだ。

理財商品などシャドーバンキングの実態も明らかになるか

今回の調査では、経営危機に陥っている中国恒大への国有銀行の融資も調査対象になる。国有銀行は、中国恒大に融資をするだけでなく、投資会社を設立して、その資金調達を助けた。この投資会社は、中国恒大からの融資返済を原資として高リターンを約束する理財商品を個人投資家向けに販売した。中国恒大が保証した理財商品のデフォルトは既に発生している。

理財商品を中心に、銀行貸出以外の信用であるシャドーバンキングの拡大が、中国の金融リスクの中核にある。銀行融資、銀行借り入れに対する当局の規制を逃れるために、金融機関はシャドーバンキングを拡大させてきたのである。

投資会社が発行する理財商品は、他の理財商品を投資対象にするなどかなり複雑な構図だ。また、銀行も投資会社が発行する理財商品を購入する一方、投資会社に融資し、また、投資会社から預金を受け入れるなど複雑な関係にある。理財商品のデフォルトや投資会社の破綻は、中国の銀行システムを揺るがすリスクを秘めている。それは、中国の金融の大きな影、いわば闇の部分である。今回の調査を通じて、その実態がどの程度明らかになるかにも注目しておきたい。

(参考資料) "Xi Jinping Scrutinizes Chinese Financial Institutions’ Ties With Private Firms", Wall Street Journal, October 12, 2021
「中国国有銀 汚職調査 習政権 金融界引き締めへ」、2021年10月15日、東京読売新聞

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