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衆院選後の金融市場の注目点

2021/11/01

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市場の関心は経済対策に移る

自民党が予想外に多くの議席を得た衆院選の結果を受けて、1日の東京市場で株価は大幅高となった。金融市場は不確実性を嫌うため、この株高は大きなイベントを通過したことと、現在の安定した政権の枠組みが維持されることを好感した側面が強い。また、コロナ対策を中心とする巨額の経済対策への期待もあるのだろう。

個人への給付金については、自民党は経済的弱者に的を絞った給付を検討している。連立与党の公明党は、0歳から高校3年生に一律10万円の給付を掲げているが、自民党が単独過半数、絶対安定多数の議席を得たことから、自民党案に近いコロナ対策になる可能性がより高まるのではないか。

他方、岸田政権は公約に掲げてきた数10兆円規模の経済対策の実現に動くだろう。その中身は未だ明らかではないが、規模ありきでコロナ対策としての有効性を欠く内容である場合には、金融市場の評価は厳しくなるだろう。

当面の金融市場の関心は、この追加経済対策、補正予算に向けられるはずだ。規模によっては債券市場が悪く反応し、金利上昇が一転して株価を調整させる、あるいは円高圧力を高める可能性もあるだろう。債券市場の安定の観点からはいたずらに規模の拡大を目指さずに、今年度予算の巨額の繰越金を再度精査し不要な予算を減額補正することで補正予算全体の規模を抑えること、コロナ対策の財源確保の議論を始めることを評価するのではないか。

市場は成長戦略、構造改革にも期待か

今回の選挙では、与野党ともに分配政策を経済政策の柱に掲げ、格差縮小、賃上げを主張した。しかしその中で、改革の必要性も強調した日本維新の会が議席数を大きく増やした点は見逃せない。国民は必ずしも短期的な所得増加ばかりを望んでいる訳ではなく、持続的な賃金上昇にもつながるような経済の潜在力向上に期待している面があることを、この結果は示唆しているのかもしれない。

岸田政権が経済政策の比重を分配から、経済の潜在力向上を促す成長戦略、構造改革、規制改革などに移していけば、それは国民だけでなく株式市場でも一定の評価を得るのではないか。

日銀の金融政策は当面変わらないが自由度は高まるか

今回の衆院選挙では、自民党幹事長の甘利氏が小選挙区で落選するという異例の事態が生じた。これを受けて甘利氏は、幹事長の職を辞する考えを述べている。過去の口利き疑惑を引き摺る甘利幹事長の辞任は、岸田政権の安定につながる面があるものの、政策執行能力を低下させてしまう可能性もあるだろう。甘利氏が自民党内で主導してきた経済安全保障政策には、一定程度影響が及ぶのではないか。他方で、岸田政権が掲げる「成長と分配の好循環」、「新しい資本主義」、「令和所得倍増計画」などの経済政策への影響は大きくないだろう。

衆院選挙の結果が、日本銀行の当面の金融政策運営に与える影響は考えられない。政治情勢がどのように変わろうと日本銀行は現状維持の政策を続ける可能性が高い。ただし、岸田政権は金融政策にはもはやあまり期待していないはずだ。

他方、以前から積極的な金融緩和を求めてきた甘利氏が幹事長を辞せば、日本銀行に対する政府、与党からの圧力は低下していく面があるだろう。また、長年、日本銀行に異例の積極緩和を強く要求し続けてきた自民党の山本幸三氏が今回落選したことも、同様の影響を生むはずだ。結果的に、岸田政権の発足と今回の衆院選挙結果を受けて、日本銀行の政策の自由度は高まる方向だろう。

世界での物価上昇率の上振れは一時的側面が強い

衆院選という大きなイベントを通過したことで、日本の金融市場の関心は再び海外の動向、特に米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策に向けられるだろう。日本銀行の政策に変化が期待できない中、日本の長期金利や為替もFRBの金融政策の見方によって振られる傾向が強いだろう。

エネルギー価格の高騰、物価上昇率の上振れは予想外に長く続いているが、これは、コロナ問題が引き起こす個人消費行動の変容による側面が強い。また消費行動の変容が促す新たな産業構造の産みの苦しみともいえるだろう。

それは一時的な現象というのがFRBの基本観であり、それゆえにテーパリング(資産買い入れの段階的減額)を今月にも実施しても、金融市場や経済により大きな影響を与える利上げ(政策金利引き上げ)には慎重な姿勢だ。実際、エネルギー価格の高騰、物価上昇率の上振れは一時的な現象と考えられる。

世界はスタグフレーションのリスクも

しかし、物価上昇率の上振れが幅広い業種での賃金上昇に転嫁されていく、あるいは企業、家計のインフレ期待を高めるという二次的効果が本格的に生じれば、一時的かつ部分的であるはずの物価上昇率の上振れが、持続的かつ幅広い物価上昇率の上振れへと転化してしまう恐れがある。そして長期金利の大幅上昇など、金融市場は不安定化しよう。

そうした場合には、金融市場の安定も視野に入れて、FRBは利上げを前倒しせざるを得なくなる。中国経済の減速やエネルギー価格の高騰の悪影響から世界経済は既に成長鈍化を始めている。FRBの利上げはそうした傾向をさらに助長し、世界経済は、物価上昇率の上振れと景気減速が併存するスタグフレーションの傾向を強めることになろう。

こうした展開はメインシナリオではないが、来年にかけての世界経済には、そうしたリスクが幾ばくかあることは確かである。その場合、世界的に株価には大きな下落圧力がかかるだろう。

FRBが利上げをする中でも、金融市場が不安定化する形で日本では円高傾向が強まる可能性がある。そして日本市場は、円高、株安、債券安に陥るのである。衆院選挙後の日本の金融市場は、そうしたリスクを次第に値踏みする展開となるだろう。

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