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高リスク資産、中国恒大問題、ステーブルコインを警戒するFRB(金融安定報告)

2021/11/09

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米連邦準備制度理事会(FRB)は8日に、半期に一度の金融安定報告(Financial Stability Report)を公表した。5月の前回報告と同様に、米国内の金融システムの脆弱性に警鐘を鳴らす内容となった(コラム「ノンバンク(シャドーバンク)のリスクに強い警鐘を鳴らすFRB」、2021年5月7日)。

前回5月の報告書以降、米国での高リスク資産の価格は一段と上昇している。新型コロナウイルス変異株の拡大にもかかわらず、資産価格は収益改善の期待と低金利環境に支えられて上昇した。また、MMFなどの金融商品では、構造的な脆弱性が続いている。

住宅価格が家賃の上昇ペースを上回っていることにも表れているように、多くの資産価格は先行きのキャッシュフローの見通しと比べてより上昇している。そうした環境の下では、資産価格は、投資家のセンチメントの悪化、新型コロナウイルス問題改善への期待の低下、景気回復の頓挫などの環境変化に対してぜい弱だ。

さらに報告書は、近い将来の米国金融システムに対するリスクとして、第1に感染リスクの拡大、第2に金利の急激な上昇、第3に中国の不動産問題、第4に新興国経済の回復の遅れと過剰負債、第5に欧州経済の回復の遅れ、の5点を挙げている。

中国では、企業と地方政府の債務水準が高く、また中小を中心に金融機関のレバレッジは高い。こうした環境で、政府が金融機関の貸出を規制したため、債務水準が高い企業、特に不動産分野での企業に大きなストレスをかけることになった。恒大集団など不動産開発企業の経営問題は、金融機関の経営悪化をもたらす。そして、不動産価格の下落、投資家のリスク回避傾向が金融システムを不安定にする。

中国の経済、貿易、金融システムの規模を考えれば、中国での金融システムのストレスは、グローバル市場でのリスク回避傾向、世界経済への悪影響を通じて世界の金融市場のストレスを高め、米国の経済や金融システムにも悪影響を及ぼす。

さらに同報告書は、法定通貨や金融資産で価値を裏付ける暗号資産(仮想通貨)「ステーブルコイン」についても警鐘を鳴らしている。ステーブルコインには構造的な脆弱性があると指摘し、取り付け騒動が生じるリスクにも言及した。裏付け資産には、価格が毀損しやすいものや流動性が低いものもあり、「透明性やガバナンス基準の欠如」によって問題が悪化しかねないと警告している。

これに関連して、イエレン財務長官が主宰し、パウエルFRB議長もメンバーである金融市場に関する米大統領作業部会(PWG)は1日発表の報告書で、ステーブルコインについて、発行企業を対象とする資本規制や常時の監督の権限を金融規制当局に付与するよう、法整備を議会に呼びかけている。

一方で、注目を集めるFRBの中銀デジタル通貨(CBDC)について報告書は、「幅広くリスクや機会を考慮し、様々な意見を聞くことに努めている」と述べるにとどめている。

(参考資料)
"Financial Stability Report", November 2021, FRB
"Fed Warns of Peril in Run-Up of Risky Asset Prices, Stablecoins", Bloomberg, November 9, 2021
「市場の警戒、インフレ・金融引き締めが最多 FRB報告」、2021年11月9日、日本経済新聞電子版

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