英国中銀のグリーンボンド購入スキームが稼働
2021/11/18
BOEが社債買い入れスキームのグリーン化を開始
現在グラスゴーで開催されているCOP26の議長国である英国は、中央銀行の政策を通じた脱炭素の推進でも世界をリードしている。
英国政府は2050年までに温暖化ガス排出量を実質ゼロにすることを法定目標としている。それを達成する施策の一環として、英国財務省は今年3月にイングランド銀行（BOE、中央銀行）の金融政策運営の使命に、温暖化ガス排出量の「実質ゼロ」社会への移行を加えることを表明した。政策運営の責務として具体的に脱炭素を盛り込むのは、主要中銀では英国が初めてだ。
新たな使命に沿って、BOEは今年5月に、量的金融緩和策として実施している200億ポンドを上限とする社債の買い入れ策で、対象企業の気候変動リスクを考慮した運用を始めるための計画案を公表した。これは、BOEが買入れた社債の中で、グリーンボンドの比率を高めていく施策である。そしてこのたび、その具体的なスキームが発表された。その報告書のタイトルは「我々の社債買い入れスキームのグリーン化（CBPS：Greening our Corporate Bond Purchase Scheme）」である。この新たなスキームは11月から実施される。
社債買い入れスキームのグリーン化の概要
社債買い入れスキームのグリーン化の概要は、以下の通りである。
１．目標設定
BOEは、2050年までに温暖化ガス排出量を実質ゼロにする政府目標と整合的になるように、保有する社債の資産配分を見直し、グリーン化を進める。2025年までにBOEが保有する社債を発行する企業の温暖化ガス排出量が25％削減されるように、社債買入れを調整する。
２．買い入れ対象の条件
2022年からは、英国政府の要件に沿った気候関連のガバナンスと公的な気候関連情報の開示、そして、エネルギー、公益など地球温暖化ガス排出量が多いセクターでは公的な排出削減目標を示すといった条件を満たさない企業の社債は、買入れの対象としない。
石炭採掘を行う企業の社債は買入れの対象外となる。また、石炭を熱源に利用する企業の社債は、一定の厳格な基準を満たさない限り買入れの対象としない。その基準とは、科学的知見に基づく計画に照らしてその活動を縮小している、時間の経過とともに排出量を削減している、再生可能エネルギーの提供を行っていること、である。
３．買い入れ方法（傾斜方式）
地球温暖化ガスの排出量削減で、優れた成果を上げる企業の社債を多く買入れ、劣っている企業の社債の買入れを減らしていく。その際に、以下のような基準に照らして企業に得点を付ける。
最新のデータにおける排出傾向、過去の排出量削減額、気候変動関連の情報開示報告、排出量削減目標についての第3者による検証と報告。
４．計画の加速
この社債買い入れスキームのグリーン化では、買入れ範囲の条件をより厳しくする、データ取得や計算の頑健性を高める、といった見直しを毎年行う。必要に応じて、気候変動対策における条件を満たさなくなった企業の社債を買い入れ対象から外す、あるいは売却する、などの行動を強化していく。
注意すべき問題点
英政府は2022年4月から1,300社超の大企業や金融機関を対象にして、気候変動関連の情報開示を義務づけることを検討している。この情報開示も、BOEは社債購入の条件とする。
BOEは、社債買い入れスキームのグリーン化は、物価安定を目指す金融政策の妨げにならないように進めていく考えを明らかにしている。また、金融政策上の必要性が低下すれば、社債買い入れ策を縮小させることを考えるとしている。BOEがグリーンボンドを含む社債の恒久的な買い手とはならない、とも説明している。
しかしながら、政府が脱炭素に向けた施策を進めていく中、金融政策上の必要が薄れても、社債買い入れスキームのグリーン化の中でグリーンボンドの買入れを進める狙いから、政府に配慮して社債買い入れ策の縮小を控える可能性もあるのではないか。その場合、BOEの物価安定という使命に悪影響が及ぶ、BOEの政府からの独立性が低下してしまう、といった問題が生じる可能性がある。
日本銀行を含め世界の中央銀行は、BOEの社債買い入れスキームのグリーン化を参考にしてグリーンボンドの買入れの枠組みを検討、導入していく可能性がある。しかし、BOEが他の中央銀行に先駆けて開始する社債買い入れスキームのグリーン化という意欲的な取り組みには、そのような副作用がある点には留意すべきだ。
（参考資料）
"Greening our Corporate Bond Purchase Scheme (CBPS)", Bank of England (https://www.bankofengland.co.uk/markets/greening-the-corporate-bond-purchase-scheme)
「英中銀、社債購入を「グリーン化」 11月から実施」、2021年11月6日、日本経済新聞電子版
「英中銀の使命に「脱炭素」追加 財務相が表明」、2021年3月4日、日本経済新聞電子版