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本格稼働を始める経済安全保障政策

2021/12/01

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来年の通常国会に経済安保推進法案を提出

岸田政権が重視する経済安全保障政策が、本格的に稼働を始める。11月19日に岸田首相は、関係閣僚で作る「経済安全保障推進会議」の初会合を開いた。政府は来年の通常国会で経済安保推進法案の提出を目指す考えだ。

この経済安保推進法の制定に向けて、政府は内閣官房に経済安全保障法制準備室を設置する。これは各省庁の職員約30人からなり、国家安全保障局(NSS)の経済班と連携して、実務的な検討を行う。他方、11月26日には経済安保に詳しい専門家からなる有識者会議を立ち上げ、初会合を開いた。そこでの提言を受けて、経済安全保障法制準備室が経済安保推進法案の策定を進める。

ただし、法案成立を待たずに、経済安全保障政策は既に進められており、11月19日に政府が閣議決定した経済対策にも一部含まれている。その一つが、経済安全保障の観点から極めて重要な、半導体産業への補助金だ。

経済対策で半導体生産を支援

汎用的な半導体を生産する既存工場の改修などに補助金があてられる。生産性向上につながる半導体製造装置の投資やシステム導入を支援する。災害による生産停止のリスクへの対応として、事業継続計画(BCP)の対策費も一部支援の対象となる。

また、半導体生産の国内生産を促すための基金を設置する。TSMC(台湾積体電路製造)は熊本県に先端半導体の生産拠点を設けるが、それが同基金を通じた補助金の第1号となる。TSMCは工場建設に8,000億円を投じて工場を建設するが、そのうち半分がこの補助金で賄われる。日本メーカーが製造できない先端半導体の生産を誘致するために、異例の大盤振る舞いとなる。国民の負担である財政支出を無駄にしないためにも、政府は、これを国内半導体メーカーによる先端半導体生産へと繋げていくように努めることが強く求められるところだ。

データセンターの地方分散を進める

さらに、経済安全保障の観点から、政府は今回の経済対策に、国内のデータセンターの強化、首都圏から地方への分散に関わる政策も盛り込んだ。今年春には、LINEの利用者情報が中国企業から閲覧できたこと、画像データが韓国のサーバーで保管されていることが明らかになり問題とされた。

国内のデータセンターは、記憶装置を積んだサーバーや通信機器を集めた施設。国内では約6割が関東地方に集中している。首都圏で大規模災害などが発生すると、全国でネットサービスが利用できなくなる恐れがあることから、データセンターの地方分散は喫緊の課題である。政府は首都圏以外でセンターの整備に取り組む事業者や、土地の造成などでそれに協力する自治体などを支援する。

また政府は、高速通信の基盤となる海底ケーブル網の増設も進める。将来的に南海トラフ地震などが懸念されるなか、ケーブルが未整備の海域にも光ファイバーを広げていく。また、ケーブルを陸揚げする地域で拠点を整備する費用についても支援する方針である。

政府は、こうした地方でのデータセンター設立や光ファイバー海底ケーブルの整備で1,000億円超の予算措置をとる方向だ。

国外への情報流出を防ぐ

今回の経済対策ではないが、2021年6月にまとめられた産業構造審議会・安全保障貿易管理小委員会の中間報告では、日本に居住する留学生や労働者のうち、外国政府・法人などの国外の関係者と雇用契約を結んでいたり、外国政府に生活費を依存するなど強い影響を受けている者は、輸出管理の対象として扱うべき旨が提言された。国内からの情報流出に対して、一層厳しい対応を政府は進めていく方向だ。

ところで、来年の通常国会で提出される予定の経済安保推進法案は、「サプライチェーン(供給網)」、「基幹インフラ」、「技術基盤」、「特許非公開」の4分野が柱となる見込みだ。既にみた半導体など産業に欠かせない戦略物資の供給網を拡充するための補助金制度の新設に加えて、情報通信など基幹インフラについては、重要設備に安全保障上の脅威となりうる国の製品が含まれていないかを国が事前審査する制度を導入する。また、人工知能(AI)など先端技術の開発に必要な資金や情報を政府が提供できる枠組みの構築や、技術情報の流出を防ぐため特許を非公開にできる制度も始める方針である。

海外との連携が進む

このような経済安全保障は、他の先進国と比べて日本が出遅れている分野だ。経済安全保障の主な柱は、端的に言えば自然災害などへの対応と中国への対応の柱である。後者については、国内だけでなく海外と連携して進められていくことになる。

安全保障と共に経済安全保障の分野での対中国の連携の枠組みが、日本、米国、オーストラリア、インドの首脳や外相によるクワッド(Quad)である。来年には、日本で会合が開かれる予定だ。海外との連携した日本の経済安全保障政策も、いよいよ来年には本格稼働する。

(参考資料)
「「首都圏に6割集中」データセンター、地方に建設へ…海底ケーブル整備含め1000億円」、2021年11月20日、読売新聞速報ニュース
「経済対策特集――中小企業・家計給付に軸足、経済安保、半導体、安定供給に補助。」、2021年11月20日、日本経済新聞
「経済対策、給付が軸 家計・企業どう支える」、2021年11月19日、日本経済新聞電子版
「検証:経済安保、中国の影 体制作り本格化」、2021年11月20日、毎日新聞
「「経済安全保障」を強化・推進へ、経産省の政策はどう変わる?」、2021年11月15日、日刊工業新聞ニュースイッチ
「経済安保推進へ閣僚会議 省庁横断的に協議 政府新設方針」、2021年11月11日、産経新聞

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