フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 物価高騰長期化と金融引締め前倒しが2022年世界経済のリスク(OECD世界経済見通し)

物価高騰長期化と金融引締め前倒しが2022年世界経済のリスク(OECD世界経済見通し)

2021/12/03

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

物価高騰とともに利上げ加速も世界経済のリスク

経済協力開発機構(OECD)は1日に発表した世界経済見通しで、感染リスク、オミクロン株、物価高騰、供給制約など、世界経済を取り巻く不確実性の高さを改めて強調した。

2021年の世界経済成長率見通しは+5.6%と、前回9月見通しの+5.7%からわずかな下方修正となった。しかし先進国では、比較的大きく見通しが下方修正されている。米国は9月の+6.0%から+5.6%へ、日本は+2.5%から+1.8%へ、ユーロ圏は+5.3%から+5.2%へ、中国は+8.5%から+8.1%へ、それぞれ下方修正された。他方でインドなどの新興国の成長率見通しが上方修正されたことで、2021年の世界経済成長率見通しは前回とあまり変わっていない。

日本の2021年の成長率見通しが特に大きく下方修正されたのは、緊急事態宣言が長期化したことの影響である。その分、景気回復は2022年に後ずれし、2022年の成長率見通しは9月の+2.1%から+3.4%へと大きく上方修正されている。

今後の物価動向が、先行きの世界経済に大きく影響することは間違いない。OECDは世界経済見通しの報告書で、家計のインフレ期待と賃金上昇期待の際に注目した分析をしている。米国では向こう1年間の家計のインフレ期待は+5%弱であるのに対して、向こう1年間の賃金上昇期待は+3%弱である。両者を合わせると、実質賃金が1年間で2%低下する見通しとなり、物価高騰が個人消費にかなりの打撃となっていることが示唆されている。状況は他国でも同様であろう。

さらに、物価の高騰が続けば、各国中央銀行の利上げ(政策金利引き上げ)が前倒しで実施され、また利上げペースも速くなる。これも、世界経済には追加でマイナスの要因となろう。そして利上げが進んだ後に、物価上昇率が低下、インフレ期待も低下していく局面に入れば、政策金利から期待インフレ率を引いた実質金利が上昇することになり、それが経済に下落圧力をかけるのである。

物価高騰はコロナ問題による一時的な現象だが

OECDは、世界の消費者物価上昇率が、今年年末から来年年初にかけてピークをつけると予想している。原油価格が足元で大きく下落していることを踏まえると、この見通しの蓋然性はそれなりにある一方、やや楽観的な見通しにも見える。

他方で、物価上昇率は2021年の第4四半期の前年比+4.9%から2022年第4四半期には前年比+3.1%へと下がるものの、依然として過去の長期平均の+1.7%を大幅に上回る見通しだ。この点はかなり悲観的な見通しに思える。

予想外の物価高騰は、コロナ問題を受けて個人がサービスからモノへと消費の比重を移し、それが一部の分野に強い需要を生む一方、感染リスクが雇用の増加を阻む結果、人手不足などから供給が追い付かない、という需要、供給両面の要因によるものだ。

感染リスクが緩和されていく中、モノへの強い需要が一部サービスの需要へと揺り戻される一方、労働供給が進んで供給制約が緩和され、やはり需要、供給両面の要因から物価高騰が収まっていくことが見込まれる。ただしそうした局面に至る時期が、予想以上に後ずれしていることは確かである。

金融市場安定のため中央銀行のインフレ警戒的なメッセージは必要か

ところでオミクロン株が再び感染リスクを大きく高める場合には、物価にはどのような影響が及ぶだろうか。供給制約が強まるものの、消費全体の需要が大きく落ちることが短期的には物価上昇率を押し下げるのではないか。そうした期待を反映して、原油価格は既に大幅に下落している。

他方でやや長めの観点からは、感染拡大リスクの再燃は消費者のサービスからモノへの需要シフトを一段と促す一方、感染リスクを警戒して労働供給が一段と制約されることから、物価上昇率の上振れ傾向をより長期化してしまうことになる可能性があるだろう。オミクロン株の物価動向への影響は、このようにかなり複雑である。

そうした中、米連邦準備制度理事会(FRB)など中央銀行の金融政策運営はかなり難しい状況にある。拙速な利上げは経済の安定を損ねてしまうリスクがある一方、金融市場でのインフレ懸念の高まりを黙認していては、それが金融市場の混乱を招き、経済に悪影響を及ぼすことになる。

現状では、金融市場に対して早期利上げの可能性も含めた警戒的なメッセージを発することで市場のインフレ懸念の上昇を抑える一方、利上げに踏み切るまでにはなお慎重に状況を見極めることが得策なのではないか。

先般の議会証言でのパウエル議長のタカ派的な発言からは、そのような真意も読みとれるのである(コラム「オミクロン株はFRBの金融政策にどう影響するか」、2021年12月1日)。

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn