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FRBのパウエル議長の任命公聴会-dual mandate

2022/01/12

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はじめに

米連邦議会上院の銀行・住宅・都市問題委員会で開催されたFRBのパウエル議長の任命公聴会では、民主党と共和党の双方の議員から高インフレへの政策対応のあり方が提起された。

インフレの原因

興味深いことに、現在のインフレの主因が主として供給側にあるという認識は、両党の主力議員の間で共有されていた。ただし、民主党側はブラウン委員長の冒頭説明に代表されるように、経済政策としては供給増加を促す方に重点を置くべきと主張したのに対し、共和党側はトゥーミー議員の冒頭説明が示唆するように、 FRBは最早不要となった金融緩和をできるだけ迅速に終了すべきとの考えを示した。

これに対しパウエル議長は、金融政策を正常化しても供給面の問題に直接的に対処することが難しい点を再三にわたって確認しつつも、今回の高インフレが需要の急拡大による面もあることも指摘した。また、今後については、時間は要するが供給制約の解消が見込まれる一方、金融緩和の強度を弱めていくことによって需要も減速し、需給の不均衡が解消されるとの見通しを示した。

また、共和党のシェルビー議員やクラポ議員からは、FRBがインフレ圧力の強さや持続性を見誤ったことへの批判的なコメントも見られたが、パウエル議長はCovid-19という前例のない事態であっただけに供給制約が予想外に広範かつ長期化した点を認めつつも、 FRBの予測は民間のエコノミストとも一致していたと弁明した。

最大雇用の達成

民主党側が強調した論点は最大雇用との関係であった。つまり、 ブラウン委員長をはじめ多くの民主党議員は、バイデン政権による経済政策の最大の功績として、Covid-19によって深刻な打撃を受けた労働市場の急速な回復-例えば、昨年の雇用者数の増加は歴史的な高水準であった-を再三強調しており、FRBによるインフレ抑制のための金融政策の正常化が、折角の業績に水を差すことに懸念を示した。

パウエル議長は、冒頭説明で、FRBが議会に付託されたデュアルマンデートに沿って金融政策を運営する原則を確認した一方で、共和党のシェルビー議員への回答の中で、現在はインフレの抑制が相対的に重要な課題である点も認めた。その上で、Covid-19前の広範な雇用拡大を参照しつつ、最大雇用の達成には持続的な景気拡大が必要であり、そのために金融政策によって物価安定を維持することが前提になるとのロジックを展開した。

また、民主党のテスター議員が、Covid-19の前後での労働市場の変化を質したのに対し、パウエル議長はCovid-19以前には雇用や賃金が広範に拡大するほか、労働参加率にも改善の兆しが見られた点を確認した一方、現在は早期退職者の増加や賃金上昇の低賃金労働への偏りといった問題が残存しているとの理解を示した。

このほか、当然予想されたことではあるが、民主党側は雇用や賃金の改善において人種間のばらつきが残存している点を問題視したほか、メネンデス議員のようにFRBの理事や地区連銀総裁にヒスパニックのように多数を占める人種が起用されていない点を明示的に批判する動きもみられた。これに対し共和党側は、 トゥーミー議員の冒頭説明などを通じて、FRBがバイデン政権の政策に迎合することで金融政策の独立性が損なわれるリスクを指摘するという興味深いやり取りもあった。

金融政策の運営

FOMCが金融政策の正常化を進める方針を示していること自体には、共和党側だけでなく民主党側からも、目立った批判はみられなかった。

もっとも共和党側は、トゥーミー議員に代表されるように、Covid-19の下で採用された危機対策-特に国債やMBSの大規模な買入れ-が資産価格の高騰や資源配分の歪み、インフレの加速を招いたとの理解を示し、そうした手段の活用が今後も「new normal」として定着することに懸念を示した。

パウエル議長は、Covid-19やGFCのような前例のない事態ではこうした対策が有効であったとの認識を示した。また、今後は政策金利の調節が主たる手段であることを確認しつつも、政策金利の水準がELBの近傍にある限りは、危機対策のような大規模な形でなくても資産買入れを活用する必要性を指摘した。

その上で、共和党のシェルビー議員やクラポ議員の質問にも答える中で、今や総需要が力強く回復しており、米国経済にとって強力な金融緩和の継続は不要になった一方、インフレ圧力の強まりは本年を通じて継続するとの見方を示し、金融政策の正常化を進める方針の合理性を確認した。

政策手段に関しては、資産買入れを3月で終了することを確認したほか、政策金利の引上げも今後の経済指標如何ではあるが、本年中に3回が市場のコンセンサスである点に言及したことに加え、本年後半のどこかで保有資産の規模縮小に着手する可能性も示唆した点が注目される。

その他の論点

共和党側は、当然予想されたことではあるが、FRBが気候変動対応に注力することに批判的な姿勢を示し、その理由として、例えばトゥーミー議員は、金融政策の独立性が損なわれるとの懸念や、地域金融機関に対応面で過度な負担をかけているとの認識を挙げた。

一方、民主党のブラウン委員長は、FRBがFSOCの提言に沿って気候変動に関するストレステストを実施する方針を質した。これに対し、パウエル議長はこれを認めた上で、こうしたストレステストは、金融機関が気候変動リスクを正しく認識し、ビジネスモデルの変更を進めることが主眼であると説明するとともに、FRBにとってこの政策課題に対応する上での主要な手段になるとの理解を示した。

このほか、共和党のクラポ議員はFRBによるデジタル通貨に関するスタンスペーパーの公表が未だになされていない点を質し、この課題に関する議会での議論の重要性を確認した。

パウエル議長は、「数週間以内に公表」という説明を繰り返してきた点を認めつつ、金融政策の変更等で多忙であったと釈明し、改めて「今後数週間」に公表すると説明した。ただし、その内容はFRBの方針を明示するというより、関係者の意見を求める(seeking opinion)性格になるとの見方を示した。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    シニア研究員

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