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FRBのブレイナード理事の副議長任命の公聴会-independence

2022/01/14

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はじめに

米連邦議会上院の銀行・住宅・都市問題委員会で開催されたFRBのブレイナード理事の副議長任命の公聴会では、共和党の議員から、これまでの政策決定における意見などをもとに、政策運営におけるバイアスを懸念する意見が示された。

金融規制の運営

同じ公聴会でFHFAのトンプソン氏の長官任命も同時に議論されたことが影響した可能性もあるが、共和党の議員の多くが取り上げたのは、ブレイナード理事による金融規制へのスタンスであった。

なかでもクレイマー議員は、いわゆるドット・フランク法の修正-金融機関に対する規制緩和に一貫して反対の姿勢を示したことを批判したほか、トゥーミー議員も、冒頭説明の中で、Covid-19によるショックの下でも金融機関の自己資本が頑健であった点は規制緩和の適切さの証左であると主張した。

これに対しブレイナード理事は、これまで、大規模な金融機関のresilienceを損なう懸念がある案件のみに反対を表明したのであり、FRB理事会内にそうした懸念があることを議長に明示することには意味があったと反論した。

民主党側からは、メネンデス議員やテスター議員が、Covid-19からの景気回復の中で人種間での格差を縮小するためにもCRA法の運用を強化すべきとの主張を展開した。ブレイナード理事もCRA法の意義を確認しつつ、そうしたコミュニティでの金融サービスへのアクセスの確保やaffordableな住宅の供給のため、金融機関がCRA法に即した対応を一層進めるべきとの考えを示した。

気候変動への対応

ブレイナード理事による気候変動対応へのスタンスも、共和党の議員の多くが取り上げた点であり、この点でも先般のパウエル議長の再任に関する公聴会とは趣が異なっていた。

トゥーミー議員は、冒頭説明の中で、気候変動への対応は議会がFRBに付託したマンデートを逸脱しており、FRBはこの問題に対応する専門的能力に欠けると厳しく批判した。さらに、質疑応答でも、物理的リスクによって破綻した金融機関はこれまで存在しないと主張したほか、移行リスクも脱炭素政策に起因する点を強調し、金融機関にリスク耐性を求めるよりも、そうした政策自体の妥当性を問うべきとの考えを示唆した。

ブレイナード理事は、既往のストレステストであっても地政学的リスクのように政策対応に起因するリスクを考慮するケースが存在する点を指摘した。また、FRBとしては大規模な金融機関を念頭に、気候変動リスクへの適切な対処を求めることが主眼であり、中小金融機関は金融システム安定に対する影響が相対的に小さいと指摘し、金融機関の負担に配慮する姿勢を示唆した。

さらに、トゥーミー議員やケネディ議員は、FRBを含む規制当局が銀行に特定部門への与信を抑制するよう求めるリスクに懸念を示した。トゥーミー議員は、FRBの銀行監督担当副議長の候補であるラスキン氏がこうした考えにあると指摘しつつ、ブレイナード理事に意見を質したほか、ケネディ議員も石油・ガス産業に与信がなされないようにすべきとの意見に反対するようブレイナード理事に回答を求めた。

ブレイナード理事は、ラスキン氏に関するコメントは避けた一方、 ケネディ議員の懸念には、FRBの趣旨は金融機関に適切なリスク管理を求める点にあることを確認した。

インフレと金融政策

当然ではあるが、共和党の議員はこの点でもFRBの政策運営に関する問題を取り上げた。

このうち、ラウンズ議員やケネディ議員は、FRBがインフレ圧力の強度や持続性を見誤った点を批判するとともに、今回のインフレの主因が供給制約にあるとすれば、FRBには有効な政策手段がないとの懸念を挙げた。

これに対しブレイナード理事は、Covid-19の感染拡大とそれによる経済への影響は前例がなく、経済の展開を予測することが難しかった点を認めた一方、民間のエコノミストも同様な問題に直面したと弁明した。

また、エネルギーや食料品、住宅、自動車などは主として供給制約によって価格が上昇したとの理解を共有した一方、金融政策は需要を抑制することが可能であり、しかも、中長期的には物価は貨幣的現象であると指摘し、金融政策による対応の有効性を主張した。

一方、トゥーミー議員は冒頭説明の中で、FRBが採用した新たな金融政策の戦略で、「幅広く包括的な」最大雇用の達成を掲げたことで、物価安定への配慮が疎かになったとの理解を示した。

これに対しては民主党も反発し、ブラウン委員長は雇用や賃金が顕著に改善してきたことを評価したほか、金融政策の戦略の意義についても、ブレイナード理事による前向きな評価を促す質問を示した。

なお、民主党のウォーレン議員は、先般の公聴会におけるパウエル議長の回答を引用する形で、企業がコストの上昇を転嫁しうるのは、市場集中度の高まりによる面もあると主張し、家計の購買力を保護するためには、独占禁止政策の徹底が必要という興味深い議論を展開した。

ブレイナード理事は、こうした可能性を認めつつも、そうした政策は政府の他の部門の責務であり、FRBはあくまでも金融政策の運営を通じて物価の安定を図ることを確認した。

民主党側からは、このほかヴァン・ホーレン議員が、人種間での失業率の格差や長期失業の高止まりといった点を考慮すると、現時点では完全雇用とは言えないと主張したほか、ワーナー議員はバイデン政権による一連の家計支援策があったからこそ、高インフレでも実質購買力の毀損が抑制されていると主張した。

Diversityの促進

民主党のメネンデス議員は、パウエル議長の再任公聴会と同様に、FRB における人種間の diversityの遅れを批判した。 ブレイナード理事は、地区連銀のBoard of Directorsなどでは改善も進んでいると説明しつつ、総じて対応の遅れを認めた。その上で、FRBとして重要な課題であると認識しており、人種に限らず多様なバックグラウンドを持った人材が集まることは、より良い政策決定の上でも有用との考えを示した。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    シニア研究員

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