フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 FRBによるCBDCのConsultation paper

FRBによるCBDCのConsultation paper

2022/01/24

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

はじめに

FRBは、企業や家計が利用するCBDCの開発や導入の促進の如何を判断するため、幅広い利害関係者を対象とするパブリックコメント(5月20日締切り)の募集を開始するとともに、現時点での検討の状況を纏めた文書を公表した。

支払システムの動向と課題

本文書のコア部分の最初のパートで支払システムの動向と課題を整理している。まず近年の特徴として、①即時支払のためのシステムの開発と②デジタル機器を通じた消費者向けサービスの導入を挙げた。①の例としてThe Clearing HouseによるRTPと、FRBによるFedNow(2023年導入)を挙げ、24時間/365日の支払のメリットを確認した一方、②については利便性向上を認めつつ、金融安定や支払システムの統一性などの課題を指摘した。

次に、課題として金融包摂を指摘し、家計の5%(700万人以上)がunbankedである点を挙げたほか、クロスボーダー支払も決済の遅さや手数料の高さ、アクセスの限定等の問題を抱えている点を確認した。その理由として、為替取引、関係国間での法制やインフラの相違、時差、仲介機関の調整コストなどを挙げた。

デジタル資産

次のパートは、マネー類似のデジタル資産の特性を整理している。暗号資産については、支払手段として広範に利用されていない理由として、価格の極端な変動、サービス業者の介在の必要性、処理速度の制約を挙げた。また、Stablecoinは、他のデジタル資産の取引に使用されているが、幅広い支払での使用を模索する動きがあると指摘した。その上で、昨年11月のPWG報告を引用しつつ、迅速で効率的かつ包括的な支払手段となる可能性がある一方で、取付のリスクや支払システムの不安定化、経済力の集中といった懸念があり、適切な監督が必要との考え方を確認した。

中央銀行デジタル通貨

これに続く本文書の中心部分では、CBDCのメリットや課題を整理している。まず、FRBが現時点で想定するCBDCの特性として、 ①プライバシーを保護、②仲介機関経由で発行、③仲介機関間での移転を可能、④利用者の認証を実施の4点を挙げた。

このうち①は犯罪行為の摘発と個人情報の保護のバランスが必要である点を確認したほか、③は支払システムの効率化に不可欠と説明し、④については仲介機関が現在の銀行等と同様に利用者の認証を行う必要性を示唆した。

②については、連邦準備法により連邦準備が個人の口座を開設できない点を確認しつつ、CBDCは連邦準備の負債であるが、仲介機関が口座やwalletを提供する仕組みを示唆し、仲介機関としては、商業銀行に加えて規制下にあるノンバンクを想定した。その上で、こうした枠組みは個人情報や認証情報の管理の既存の枠組みを活用しうるほか、民間部門によるイノベーションを促進し、金融システムの不安定化を抑制しうる点をメリットとして指摘した。

次に、本文書は、CBDCが即時完了性を有しリスクフリーな支払手段として、個人や企業、政府による経済活動で活用される可能性を示しつつ、潜在的なベネフィットを5つに整理して示した。

第一に支払サービスに対する将来のニーズへの安全な対応であり、民間デジタルマネーの拡大は利用者と金融システムの双方にリスクを招き得るとしつつ、CBDCは民間部門によるイノベーションの安全な基礎になりうるとの考えを示した。

併せて、CBDCは小企業を含む民間部門に公平な競争環境を提供しうるほか、プログラム機能の活用やマイクロペイメントの包摂などを通じて、デジタル経済の下での迅速性や効率性の要請にも対応しうるとした。

第二にクロスボーダー支払の効率化であり、CBDCの導入に伴う新技術の活用や支払チャネルの簡素化、国家間での相互運用性の向上などを理由として挙げた。

第三に米ドルの国際的役割の維持であり、国際通貨としての地位は潤沢で流動性の高い金融市場や、経済の規模と開放性、法の支配によって支えられているが、他国や他地域がCBDCを導入することの意味合いを検討すべきとした。

第四に金融包摂の促進であり、経済的に脆弱な家計や地域への対応はFRBの重点課題であるとした上で、民間部門が提供しているデジタル支払のメリットを均霑する可能性を示唆した。

第五に中央銀行マネーへのアクセス拡大であり、米国でも2012年から2020年に現金支払の件数シェアが40%から19%へ縮小した点を指摘しつつ、消費者は信用リスクや流動性リスクのないCBDCを選好する可能性があるとした。

最後に、CBDCのリスクや政策課題を5つに整理して示した。

第一に金融構造への影響であり、銀行預金等の安全資産からの資金シフトのリスクを指摘した。もっとも、CBDCに付利しないことや利用者による保有額制限によって対応しうる可能性を示したほか、stablecoinも資金シフトを招き得ると指摘した。

第二に金融安定への影響であり、金融危機の際の資金シフトは既存の政策手段では対応しえない可能性を認めつつも、上記と同様な対応やCBDCの総供給額の抑制等の有効性を示唆した。

第三に金融政策の波及への影響であり、超過準備の下でも当座預金の付利で政策を運営しうるため、CBDCの量の変化は影響を持たない点を確認しつつ、長い目で見ればFRBがCBDCの増加に即して資産を増やす必要も確認した。もっとも、CBDCに付利する場合は影響が不透明であるほか、非居住者による保有を認める場合も資産規模の調整が必要となる点も認めた。

第四に個人情報保護と犯罪防止のバランスであり、仲介機関が既存の枠組みによって個人情報を保護する一方、犯罪防止のためのコンプライアンスを果たし得るとの考えを示した。

第五に頑健性とサイバーセキュリティであり、システム障害やサイバーリスクへの対応の重要性を確認したほか、オフライン支払への対応によってシステム全体の頑健性に寄与しうるとした。

パブリックコメント

質問は合計22問であり、ほとんどは上記の検討の妥当性、ないし検討しなかったが重要と思われる点を質すものである。なお、本文書のAppendix Aには、FRBが技術的検証や政策面での検討を続けるとともに、民間の事業者や研究者との意見交換を進めるほか、一般利用者との対話にも注力する姿勢が示唆されている。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    シニア研究員

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn