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FRBのパウエル議長の記者会見-Neutral rate

2022/05/05

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はじめに

今回(5月)のFOMCは50bpの利上げを決定したほか、今後2回(couple of)の会合では50bpの利上げを選択肢とすることを予告した。また、保有資産の圧縮を6月初から開始することもあわせて決定した。

経済情勢の評価

パウエル議長は、冒頭説明で、第1四半期の経済成長率は減速したが、在庫投資の減少や輸入の増加といった懸念の少ない要因によるとの理解を示しつつ、消費や設備投資は堅調に拡大している点を確認した。また、雇用も拡大し、小幅な労働供給の増加の下で人手不足が続いている点も確認した。その上で、米国経済は力強く良好な状態にあるとして、利上げや保有資産の削減を行っても対応しうるとの判断を強調した。

質疑応答では複数の記者が景気後退のリスクを取り上げたのに対し、パウエル議長は、財政支出の減少や海外経済の減速もあって経済成長率は減速するが、雇用の拡大による所得の増加や高水準の貯蓄が消費を支えるとして、景気後退のリスクは小さいとの見方を確認した。また、人種間の失業率格差は解消していないとの指摘に対しては、物価安定の下での持続的な景気拡大の方が格差縮小に有用と反論した。

物価情勢の評価

パウエル議長は、冒頭説明で、力強い需要や供給制約、サプライチェーンの障害によってインフレ率が極めて高いほか、インフレ圧力が広範に拡大している点を認めた。また、声明文に明記したように、ウクライナ侵攻と中国のCovid-19対策がインフレ圧力を高める点に懸念を示した。その上で、高インフレが食品や住居、交通のコストを高め、経済的弱者を中心に広範な国民に影響しているとの認識を確認し、利上げや保有資産の圧縮の必要性を強調した。

質疑応答では、複数の記者が労働市場の不均衡によるインフレ圧力を取り上げたのに対し、パウエル議長は、供給側の要因は労働参加率の改善等によるUV曲線のシフト等に期待せざるを得ない点を認めつつ、金融政策が労働需要の抑制に資すると説明した。また、ウクライナや中国の問題にも直接対処できないが、金融政策でインフレ期待を安定させることは重要と指摘した。

別の複数の記者もインフレ期待の評価を取り上げたが、パウエル議長は、短期の期待は顕著に上昇したが、中長期の期待の上昇は抑制されているとの見方を確認した。その上で、賃金上昇との関係で今後も注意深く監視する方針を確認した。

政策金利の引上げ

今回(5月)のFOMCは50bpの利上げを決定したが、パウエル議長は、冒頭説明の最初に国民へのメッセージとして、FRBがインフレが広範な影響を与えている点を強く意識しており、経済が強い状況にある下でインフレの抑制が重要との判断から利上げを行うとの説明を行った。

この点に関してパウエル議長は、質疑応答で、金融政策の信認に問題が生じている訳ではないとして、先に利上げの開始を示唆した際にも金融市場は円滑に消化したとの見方を示した。また、利上げによって家計の利払い負担が増加しうるとしても、インフレは国民全体に影響を及ぼしているだけに、インフレの抑制は幅広く恩恵をもたらすとの考えを強調した。

また、別の複数の記者が、利上げに関するトレードオフについてボルカーの対応に言及しつつ質した。パウエル議長は、同氏が正しい政策を実行する勇気があったと評価したほか、インフレ期待の安定が重要である点は現在も同じとの理解を示した。もっとも、現在は家計や企業の需要が強く、利上げに伴う負担は大きくないとして、トレードオフは深刻でないとの見方を強調した。

さらに、今回(5月)の50bpの利上げは事前予想通りであったが、パウエル議長が今後2回(couple of)の会合で50bpの利上げを選択肢とすることを冒頭説明で明言したため、多くの記者が利上げペースと政策金利の最終到達点を取り上げた。

パウエル議長は、昨年冬以降に雇用の拡大が加速したために、そもそも25bpではなく50bpの利上げの必要性が高まったと説明した。また、少なくとも現時点では75bpの利上げは想定していないとした上で、経済動向と金融環境に照らして50bpが適当になりうるとの考えを示唆し、利上げペースについては今後も市場に適切に伝達する方針を確認した。

一方、中立金利については、SEPの中で各FOMCメンバーが推計値を示しているが、不確実性が高く具体的に明示することは困難との考えを示した。このため実務的には、利上げに伴う金融環境の変化とそれに伴う経済活動への影響がインフレ抑制に十分かどうかを見ながら政策を運営することが適切との理解を示した。

加えて、現在の政策金利はいずれにしても中立水準からは距離があるだけに、現在は今後に中立水準以上に引上げるかどうかを決定するタイミングにはなく、必要になれば躊躇なく引き上げるとの方針を確認するに止めた。

パウエル議長が中立金利の評価で金融環境に言及したこともあり、別の記者からは、この間の株価の調整が家計の消費などに与える影響についての質問も示された。これに対してパウエル議長は、金融環境としては、株価だけでなく広範な金利や資産価格も考慮する必要があると説明した。

保有資産の削減

今回(5月)のFOMCは保有資産の削減を6月から開始することもあわせて決定した。

別途公表された文書によれば、基本的には前回(3月)のFOMC議事要旨で示唆されていた通りであり、①予見可能な方法かつ基本的には再投資額の調整による、②最初の3か月の減少額の上限は、米国債が300億ドル/月、MBSが175億ドル/月とする、 ③その後は米国債が600億ドル/月、MBSが350億ドル/月に引き上げる、④米国債の減少額が不足する場合にはTBも活用する、とされた。

加えて、潤沢な準備供給を若干上回る水準に達した時点で、保有資産の削減を減速ないし停止し、その後はFRBの負債側の変化に伴って準備供給を軟着陸させる方針も示された。もちろん、 FOMCとして、経済情勢や金融環境の推移に即して運営の細部を調整する考えもあわせて明記した。

執筆者情報

  • 井上 哲也

    金融デジタルビジネスリサーチ部

    シニア研究員

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