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デジタルドルに慎重姿勢を続けるFRB(中銀デジタル通貨報告書)

2022/01/24

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FRBが中銀デジタル通貨(CBDC)に関する初の報告書を公表

米連邦準備制度理事会(FRB)は1月20日、中銀デジタル通貨(CBDC)に関する初の報告書を公表した。当初は昨年夏に公表する予定であったが、半年程度後ずれした。内容については、日本銀行を含め他の多くの中央銀行が既に公表しているCBDCの論点整理と変わらず、サプライズはほぼなかったと言えるだろう。

FRBが米国でのCBDC、いわゆるデジタルドル発行の議論を主導していく意図はなく、判断は国民、議会に任せる、という趣旨のことが記されている。功罪併せ持つCBDCについて、FRBの慎重な姿勢を改めて確認させるものとなった。

中国は、CBDCであるデジタル人民元の発行準備を進めている。2月4日から始まる北京冬季五輪で、何らかの形で海外にそれをお披露目する可能性は高い。1月4日には、一部の人が完成版に近いデジタル人民元のアプリをダウンロードし、自身の預金からチャージして使えるようになった(コラム「北京五輪開幕1か月前にデジタル人民元試行版アプリを配信」、2022年1月5日)。

試験的に使用できる場所は大都市を中心に昨年末時点で800万か所を超えたという。また、デジタル人民元のアプリをダウンロードしたアカウントは3億弱に及ぶという。取引金額も約876億元(約1兆6千億円)に上る。

今回のFRBの報告書が、直前に迫るデジタル人民元の発行を意識して書かれたことは疑いがない。報告書では、「多くの外国や通貨同盟がCBDCを導入してしまった未来を想像し、意味を考える必要がある」と述べられており、中国あるいは他の先進国にCBDCの発行で先を越されることへの焦りも滲ませている。

論点整理にとどめ、FRBの判断は示されない

しかしこの報告書はあくまでも、CBDC発行のプラス面、マイナス面についての論点整理にとどめており、実際に発行すべきか否かに関するFRBの判断は、一切示されていない。

CBDC発行によって、デジタル金融サービスをより安全な形で提供できるようになる点や、国際送金・決済をより迅速に低コストで行えるようになるという利点が示された。また、他国が利便性の高いCBDCを導入すれば、基軸通貨ドルの地位が低下する可能性があるが、そのリスクを低下させる可能性があることも、潜在的な利点として示されている。金融包摂に資する点も言及されている。

他方で、個人が銀行預金からCBDCに資金を移し銀行預金が減少すると、銀行の金融仲介機能を低下させる、銀行の流動性リスクを高め金融システムを不安定にさせる点や、個人のプライバシーが侵害される可能性がある点などが課題として挙げられている。5月までにこの報告書に対する意見が公募される。

米国及び世界の中銀デジタル通貨(CBDC)発行の議論に大きな影響を与えるデジタル人民元

そのうえで報告書は、「政府や議会が新たな法制化などを通じてCBDCの発行を明確に後押ししない限り、FRBが発行計画を進めることはない」と明言している。米国でのCBDCの発行を巡っては、世論、政府、議会での議論は、現時点では概して低調だ。FRBが議論を主導しないのであれば、近い将来、CBDCの発行に向けた機運が米国内で高まることはないだろう。

ただし、今年正式に発行される予定のデジタル人民元が、中国以外で広く利用されるとの観測から、ドルの地位低下懸念が高まり、またその結果、ドルの価値が下落すれば状況は変わり得る。人民元に対抗する観点から、米国でもCBDCの発行に向けた議論が、にわかに高まる可能性があるだろう。そして、米国がCBDCの発行に前向き姿勢を明らかにすれば、日本を含めて多くの国でCBDCの発行の議論が一気に高まる可能性も出てくる。

今後の世界のCBDC発行の流れに大きな影響を与えるゲームチェンジャーは、やはり中国のデジタル人民元である。

(参考資料)
"Money and Payments: The U.S. Dollar in the Age of Digital Transformation", FRB, January 2022
「デジタルドル、本格議論へ FRBが報告書、中国を意識」、2022年1月22日、朝日新聞
「独走の中国、警戒する米国 デジタル通貨、国家間競争」、2022年1月22日、朝日新聞
「デジタルドル、両論併記 賛否示さず意見公募 FRB報告書」、2022年1月22日、産経新聞
「米FRB:「デジタルドル」報告書 FRBが初、議論の第一歩」、2022年1月22日、毎日新聞

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