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ロシア経済危機が日本に与える衝撃

2022/03/08

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ロシアのGDPが10%低下しても世界のGDPへの直接的な影響は-0.17%

ロシアのウクライナ侵攻を受けて先進国が実施した経済制裁措置は、ロシアの国際決済を遮断し貿易に大きな打撃を与えている。ロシア国民は今後、輸入品減少による物不足とロシアの通貨ルーブルの急落を受けた輸入品価格の大幅上昇によって、生活に大きな打撃を受けることになる。

今年1月時点で国際通貨基金(IMF)は、2022年のロシアの実質GDP成長率を+2.8%と堅調な成長を予想していたが、先進国による経済制裁措置によって、2022年のロシアの成長率は、新型コロナウイルス問題で-2.7%と大きく落ち込んだ2020年をさらに大きく下回る可能性が高い。経済制裁措置などをきっかけに、ロシアの実質GDPは10%程度低下すると見ておきたい。

ただし、ロシア経済の落ち込みが世界経済に与える直接的な影響は必ずしも大きくはない。2020年時点でロシアのGDPの規模は世界の11位であり、世界全体の1.66%である。ロシアのGDPが仮に10%低下しても、世界のGDPは0.17%低下する程度にとどまる。

ロシアのGDP10%低下で日本のGDPはわずか0.06%の低下

それでは、日本経済に与える影響はどうだろうか。2021年の日本の貿易に占めるロシアの比率は、輸出では全体の1.0%、輸入では1.8%と小さい。内閣府の短期日本経済マクロ計量モデル(2018年版)によると、世界の需要が1%低下すると、日本の実質GDPは波及効果を含めた1年間の累積効果で0.38%低下する。ロシアのGDPが世界の1.66%であることを踏まえ、それが10%低下する場合、日本のGDPは1年間の累積効果で0.06%低下する計算となる。影響はかなり限定的である。

日本からロシアへの輸出品のうち、自動車が最大である。それは年間3,530億円で輸出全体の41.5%を占めており(2021年)、日本の自動車産業がロシア経済悪化や貿易決済の混乱の打撃を最も受けやすい分野と言える。しかし、それは日本の自動車輸出全体の3.3%に過ぎず、自動車産業への打撃も大きいとは言えない。

ロシアからの輸入については、鉱物性燃料が61.3%と大きな比率を占めている。ただし、鉱物性燃料の輸入全体に占める比率は5.6%と大きくなく、基本的には他国からの輸入に代替が可能だろう。

鉱物性燃料に次いで大きいのは魚介類で、ロシアからの輸入全体の8.9%を占める。魚介類の輸入全体に占めるロシアの比率は9.1%であり、ロシアからの魚介類の輸入が止まっても、日本人の生活に大きな支障が出るわけではないだろう。ロシア産のカニ、イクラ、ウニなどを食べるのを我慢すればよいだけだ。

ウクライナ問題は原油価格高騰を通じた日本経済への影響が重要

ウクライナ問題から日本経済が受ける打撃で最大なものは、原油価格高騰を通じたものである。2月7日には、WTI原油先物価格は一時130ドルに達したが、これは年初から75%程度の原油価格上昇となる。それは、日本の実質GDPを1年間の累積効果で0.26%押し下げる計算となる(コラム「まん延防止措置延長で経済損失は合計4.0兆円。ウクライナ情勢による原油高の影響と政府の各種政策の評価」、2022年3月3日)。

これは、ロシアのGDPが10%低下する際に直接日本経済に与えるマイナス効果の4倍以上に達する。さらに、ウクライナ問題によって、原油価格は先行きなお大きく上昇する余地を残しているのである。

日本経済がウクライナ問題から受ける影響は、原油価格の上昇を通じた経路が最大なものである。今後のロシア経済の動向以上に、先進国からの追加制裁がロシアのエネルギー供給を通じて世界のエネルギー価格に与える影響、さらにそれが金融市場に及ぼす波及効果を、我々は十分に注視していく必要がある(コラム「ロシアのウクライナ侵攻本格化で日本経済に『円高・株安・原油高』のトリプルパンチ。GDP1.1%低下も」、2022年2月25日)。

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