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FRB、日銀よりも難しい金融政策判断に直面するECB

2022/04/15

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ウクライナ情勢の不確実性を踏まえ政策方針の明示は6月の理事会に先送り

欧州中央銀行(ECB)は4月14日に開かれた理事会で、金融政策の現状維持を決めた。前回3月の理事会では、ECBは事前予想に反して資産買い入れの縮小ペースを加速する決定をしていた。資産買い入れプログラム(APP)による債券買い入れは5月から減らし始め、7-9月期にも終了させる方針を示したのである。

今回は、縮小ペースをさらに加速させることや、縮小を終える時期を明示する可能性も事前には見込まれていた。しかし実際には、それらは見送られたのである。APPの終了時期やその後の政策金利引き上げなどの見通しについては、次回6月の理事会で、最新の経済予測と共に決定する方針を示した。ウクライナ情勢に関わる不確実性を踏まえて、事実上の決定先送りでもある。資産買い入れの縮小ペースについては、前回理事会と同様に「データ次第」としつつも、声明文で「7~9月期に終える見通しが強まった」と明記された。

物価高と景気悪化の双方リスクで政策判断が難しいECB

ラガルド総裁は、ウクライナ情勢によって一段のインフレ高進のリスクが高まったとの認識を示し、数か月以内に債券購入を終了させることが適切だ、との姿勢を確認した。他方、ウクライナ情勢がユーロ圏経済の回復を脅かしているとも指摘している。ECBはインフレリスクの高まりと景気悪化の双方のリスクに配慮した、難しい政策のかじ取りを迫られているのである。

他方、米国経済は現時点では堅調を維持していることから、FRBは物価高騰への対応に注力し、金融引き締めを急速に進める方向にある。日本では、物価上昇率は欧米と比べれば低いことから、日本銀行は金融緩和を維持する方針だ。ただし、そうした政策姿勢が日米金利差の拡大観測を強め円安圧力を高めている。円安は物価上昇率をさらに高めることから、企業や家計は、「日本銀行の政策が物価上昇をさらに高める悪い円安を促している」との批判を高めている。また、円安を巡って政府との関係もギクシャクし始めている。しかし、日本銀行は、マイナス金利の解除や資産縮小などの明確な金融政策正常化に踏み切ることは、現時点では全く検討していない。

ウクライナ情勢の影響を、経済、物価両面から最も大きく受けるのは、ロシアへのエネルギー依存が高い欧州である。今後、対ロ追加制裁措措置やロシアの報復制裁によって、ロシアから欧州への原油、天然ガスが止まる事態となれば、物価上昇はさら加速する一方、経済活動に大きな支障が生じ、景気失速のリスクも高まりかねない。

つまり、ウクライナ情勢は欧州にスタグフレーションのリスクを高めているのである。その結果、ECBの金融政策運営は、FRBや日本銀行と比べて格段に難しくなっている。

ECBの利上げで日欧政策金利が逆転し円独歩安の傾向が強まる可能性も

ラガルド総裁はAPPを終了する時期とともに、利上げ(政策金利引き上げ)のスケジュールはまだ決定されていないと説明した。利上げはAPP終了の「1週間後かもしれないし、数か月後かもしれない」と語っている。

金融市場は、APPが8月頃終了した後、9月にも0.25%の利上げが実施されるとの見方を強めている。さらに12月の理事会で、追加で0.25%の利上げを実施し、政策金利を現状の-0.5%から0%とし、年内にマイナス金利が解除されることを金融市場は見込んでいるのである。

仮にそうなれば、日本とユーロ圏の政策金利の水準は逆転することになり、為替市場では円独歩安の傾向が強まる可能性も考えられるところだ。

(参考資料) "Lagarde Pinpoints June as Moment for Clarity on ECB, Pullback", Bloomberg, April 14, 2022

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