フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 ウクライナ問題で先進国と新興国の分断リスクに直面するG20

ウクライナ問題で先進国と新興国の分断リスクに直面するG20

2022/04/19

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

G20財務相・中央銀行総裁会議にロシアは参加の方向

4月20日にワシントンでG20(主要20か国・地域)財務相・中央銀行総裁会議が開かれる。経済・金融問題を議論するG20財務相・中央銀行総裁会議は1999年より始まり、2008年からはG20サミット(首脳会談)も行われてきた。しかし、先進国と主要新興国とが世界の問題の解決を巡って協議するG20の枠組みは、今回の会合で分断のリスクに晒されている。そのきっかけは、ロシアのウクライナ侵攻だ。

先進国側は、今回の会合にロシアの参加を認めないよう、議長国のインドネシアに働きかけてきた。先進国は今回のG20を、ウクライナに侵攻したロシアへの批判と経済制裁の強化で結束する場、としたい考えだ。しかしG20では、参加者の全員一致による決定が慣例であるため、当事者のロシアが参加すれば、それらを共同声明に盛り込むことはほぼ不可能となる。

また、3月24日のG7サミットでは、「国際機関や多国間フォーラムは、もはやこれまでどおりにロシアとの間で活動を行うべきではない」とし、制裁の一環としてロシア排除を求めることで一致した、ということもその背景にある。

他方、ロシアはG20に参加する意向である。ウクライナ侵攻を巡る自国の立場の正当性を訴えるとともに、先進国による対ロ経済制裁を強く批判し、他国からの理解を得る場としたいという狙いがあるだろう。

議長国のインドネシアは、ロシアのシルアノフ財務相がオンライン参加する方向であることを明らかにしている。他方、議論の中心はウクライナ問題となるため、バランスをとってウクライナからもマルチェンコ財務相が訪米して会議に出席する可能性があることも明らかにしている。

先進国ボイコットでロシア寄りのメッセージも

ロシアの参加に強く反発しているのが米国だ。4月6日にイエレン財務長官は議会公聴会で、「ロシアが出るなら、米国は(G20の)いくつかの会合には参加しない」と明言した。米国がG20財務相・中央銀行総裁会議をボイコットする場合、日本も含め他の先進国もそれに同調する可能性も考えられる。その場合、今回のG20財務相・中央銀行総裁会議の参加は、半数の新興国10か国のみとなってしまう。

4月7日に開かれた国連総会の緊急特別会合では、国連人権理事会でのロシアの理事国資格停止を巡り、G7はそろって賛成した。しかし、G20メンバーのうちBRICsを含む8か国が反対や棄権に回ったのである。

つまり、今回のG20に先進国が参加しない場合、ロシアの立場に理解を示し、また、先進国による対ロ制裁に批判的な国が大半を占めることになる。そうなれば、ロシア寄りのメッセージが出されることになる可能性があるのではないか。

G20は機能不全のリスクに直面

他方、G7諸国は別途ワシントンで会議を開く。そこではロシアへの強い批判と対ロ制裁での結束を再確認することになる。そうなれば、G7とG20の連携は崩れ、先進国と新興国との対立の構図が強く浮かび上がってしまうだろう。

11月にはG20サミット(首脳会議)が予定されている。仮に今回のG20財務相・中央銀行総裁会議に先進各国が参加するとしても、G20サミット(首脳会議)でG7首脳がプーチン大統領と同席することは考えにくいところだ。プーチン大統領が参加すれば、G7首脳はボイコットをするだろう。

今までも先進国は、G7では中国への対応を議論する一方、中国が参加するG20ではそれを議題にしないといったダブルスタンダード(二重標準)の対応をしてきた。ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、G7とG20のダブルスタンダード(二重標準)の傾向はより強まっている。そして、親露と反露の対立だけでなく、先進国と新興国の対立の構図が強まっているように思われる。これは深刻な事態だ。

そのもとでは、先進国だけでは解決できない世界の課題を主要新興国も交えて協議し対応しようというG20に本来期待される機能が働かなくなってしまう。そうなれば、新型コロナウイルス問題への対応、エネルギー価格や食料品価格高騰への対応、食料不足への対応、低所得国の対外債務問題への対応など、世界的な重要課題への対応が停滞してしまうだろう。それは、特に低所得国、最貧国にとっては極めて深刻な事態である。

(参考資料)
「G20、露の出席可否焦点 対応問われる日本 20日財務相会議」、2022年4月17日産経新聞
「G20分裂の瀬戸際 米、ロシア参加を拒否」、2022年4月16日、日本経済新聞電子版
「G20「露参加」対立鮮明 締め出し 新興国反発」、2022年4月16日、東京読売新聞

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn