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IMFの世界経済見通し下方修正。対ロシア制裁強化でさらに大幅下振れも

2022/04/21

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2022年の世界の成長率見通しは0.8%ポイント下方修正

4月19日に国際通貨基金(IMF)は、新たな世界経済見通しを発表した。1月の前回見通しから、2022年の世界の成長率見通しを0.8%ポイント下方修正して+3.6%、2023年は0.2%ポイント下方修正して同じく+3.6%とした。

見通し下方修正の最大の要因は、ロシアによるウクライナ侵攻とそれを受けた対ロシア制裁の影響である。世界の実質GDPは2022年と2023年の合計で1.0%程度下方修正されたことになる。これには、年明け後の日本や中国での感染問題の拡大や米連邦準備制度理事会(FRB)による政策金利引き上げ見通しの上方修正の影響なども含まれている。従って、ウクライナ紛争要因だけ取り出せば、それは世界の実質GDPを0.5%~1.0%程度押し下げる見通し、と考えられる。これは、違和感のない数字である。

ウクライナ紛争の当事国であるウクライナの成長率見通しは2022年に-35.0%、ロシアは-8.5%となった。ロシアの成長率見通しは、他の国際機関などの見通しと比べてやや高めであるが、これは、ルーブル相場の持ち直しを受けて、物価高騰による経済の押し下げ効果が小さくなったことを反映していると見られる。

ただしIMFのチーフエコノミストのグランシャ氏は、通貨ルーブルが回復しても、高インフレなどのロシア経済の状況には変わりはなく、ウクライナ侵攻に伴う一連の制裁で受けた打撃からすぐには立ち直らない、との見方を示している。

なお下方修正に余地を大きく残す

さらに同氏は、対ロシア制裁が強化され、エネルギー輸出も制限されれば、ロシア経済は2023年までに17%のマイナス成長に陥る可能性がある、との予想を示している。その場合、エネルギー価格の上昇、センチメントの悪化、金融市場の混乱などの波及的な影響によって、世界経済の成長率見通しがさらに2%ポイントも押し下げられる恐れがある、と述べている。

石炭に加えて、天然ガス、原油なども先進国の輸入禁止の対象となり、エネルギー価格が一段と上昇する場合には、今回の2022年、2023年の世界の実質GDPの下方修正幅は、今回の2倍程度の規模に達する可能性が出てくる。

ロシアの天然ガス、原油が先進国による制裁対象となれば、最も打撃を受けるのは、それらのロシア依存度が高い欧州連合(EU)、特にドイツである。今回のIMFの世界経済見通しで、主要国の中では最も大きく2022年の成長率見通しが下方修正されたのはドイツである。前回1月の見通しから1.7%ポイントと大幅に下方修正され、+2.1%となった。ロシアの天然ガス、原油の輸入を止めれば、ドイツの成長率はマイナスとなるだろう。

ウクライナ東部での戦闘は再び激しくなり、民間人の被害はさらに広がる方向だ。そうした中、ロシアに対する国際世論が一段と厳しくなれば、EUも自身への経済的な打撃を覚悟のうえで、ロシアからのエネルギー輸入の制限を一段と強化せざるを得なくなるだろう。そうなれば、エネルギー価格の一段高とも相まって、世界経済見通しのさらなる下方修正が必至となる。

この点から、ウクライナ紛争を受けたIMFの世界経済見通しの下方修正も、依然として道半ば、との感がある。

世界の分断化やダブルスタンダード(二重標準)化の流れが加速

最後に、世界経済分裂のリスクについても触れておきたい。グランシャ氏は、ウクライナ紛争の結果、テクノロジー基準と国際決済制度、準備通貨などが互いに異なる地政学的ブロックに、世界経済が分断されていくリスクも高まっている、と指摘する。それはいわゆるダブルスタンダード(二重標準)化でもある。そうした変化は、長期的な経済の効率性の低下を招き、経済や金融市場のボラティリティを増大させ、過去75年にわたって国際関係と経済関係を規定してきた既存のルールに基づく枠組み、秩序に重大な課題を突きつけることになるだろう、と同氏は指摘する。

ウクライナ紛争は、中国の台頭で浮上したこうした世界の分断化やダブルスタンダード化の流れを、一気に加速させるリスクを秘めているのである。

(参考資料)
「ロシア経済は制裁で打撃、早期回復見込めず=IMFチーフエコノミスト」、2022年4月19日、ロイター通信ニュース

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