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日銀のCBDC連絡協議会・中間整理:CBDC発行の是非を国民は判断できるか

2022/05/16

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日本銀行は連絡協議会で関係機関との議論を進める

日本銀行は2021年4月に、中央銀行デジタル通貨(CBDC)に関する実証実験の第1段階である「概念実証フェーズ1」を開始した。それは2022年3月まで実施され、今年4月にはその報告書が公表された(コラム「日本銀行が中銀デジタル通貨(CBDC)第1段階実証実験の報告書を公表」、2022年4月14日)。同時に「概念実証フェーズ2」が開始されたのである。この先、実証実験が第3段階まで進めば、いよいよ事業者や消費者が実地に参加する形のパイロット実験となる。

並行して、日本銀行は政府、民間事業者と情報共有とCBDCの具体的設計などについて議論を行っている。それが「中央銀行デジタル通貨に関する連絡協議会(連絡協議会)」である。5月13日に日本銀行は、連絡協議会での議論の内容などを「中間整理」という形で公表した。

CBDCの発行について、日本銀行は以下の見解を繰り返し述べている。「日本銀行では、現時点で中央銀行デジタル通貨(CBDC)を発行する計画はないものの、決済システム全体の安定性と効率性を確保する観点から、今後の様々な環境変化に的確に対応できるよう、技術的な実証実験を含め、しっかり準備しておくことが重要と考えている。」

しかし、第1段階実証実験の報告書や今回の中間整理を見る限り、かなり具体的な議論が進められてきており、日本銀行としてはCBDC発行の方向で考え、準備を進めているとの印象を受ける。

CBDCでは既存の民間決済システムとの協業が目指されている。銀行間送金を担う全銀システムの次期更改が2027年に予定されていることから、そのタイミングに合わせて、CBDCの発行が正式に決定される可能性も考えられるところだ。現在、銀行間の最終的な決済には日銀ネットが用いられているが、協議会では、銀行間の資金清算にCBDCを活用する可能性も議論されている。

CBDCは「多層構造」に

CBDCを発行する際に、企業や個人はそれを日本銀行から直接入手するのではなく、銀行などの仲介機関から入手することを日本銀行は想定している。これは、現在、企業や個人が現金を入手するのと同じ仕組みである。それは間接型の発行形態、あるいは「二重構造」と呼ばれる。仲介機関としては、銀行のみならず銀行以外の決済業者を認めることも検討されている。

一方、CBDCのシステムは、CBDCをすべてのユーザに等しく提供するためのインフラ部分、公共財の部分と、それを利用して仲介機関や民間事業者がイノベーションを発揮して様々な追加サービスを行う非競争領域の二層方式とすることが想定されている。この場合、CBDCのシステムは「多層構造」になる、と言えるだろう。

非競争領域での追加サービスとしては、CBDCの利用金額や使途を記録・管理する家計簿サービス、などが考えられている。また追加サービスには、API技術や分散型台帳技術を用いることも考えられる。

CBDCは銀行預金の減少をもたらさないか

連絡協議会では、CBDCのシステムで、既にみた日本銀行と民間機関との間の「垂直的共存」に加えて、CBDCが他の決済手段と棲み分けていく「水平的共存」も議論されている。

そこでまず考えられるのは、CBDCと現金の関係である。もともとCBDCは現金を代替する存在となることが想定されている。実際にCBDCが発行されれば、現金の利用がその分減少することになるだろう。ただし、国民の間ではCBDC発行後も現金利用のニーズは残ることから、CBDCと現金はしばらく併存することが予想される。個人、企業、金融機関が、CBDCと現金の最適なバランスを自ら模索していくことが期待されるのである。

CBDCと現金がしばらく併存するのであれば、通信障害を想定してCBDCをスマートフォンやプリペイドカードに価値を移転するオフライン方式の構築を急ぐ必要はない、との意見も連絡協議会で出ている。

他方、より注目されるのは、CBDCと銀行預金との関係である。CBDCが同様に決済機能を持つ銀行預金を相当規模で代替すれば、銀行預金の減少が銀行の経営を不安定にさせる、あるいは信用創造機能を損ねることも考えられる。また、銀行預金からCBDCに急速に資金が移動すれば、一種の取り付け騒ぎにも発展するリスクも生じる。

そこで、CBDCが銀行預金を大幅に代替することを回避するために、CBDCの保有額や決済額などに上限を設定すること、あるいはCBDCに金利を設定し、その金利と銀行預金金利との差を調整することで、両者間の資金移動をコントロールすることも検討されている。CBDCの利用制限や金利設定は、日本のみならずCBDCの発行を検討している海外でも大きな議論の対象となっている。

国民が現金利用のコストを理解することが重要

CBDCを導入するか否かは、最終的には国民の判断による、と日本銀行は説明する。CBDCの発行を決める法的権限は日本銀行にないと考えられる。また、実際に発行することになれば様々な法整備が必要となり、それは国民の代表機関である国会が決めることになる。そのためCBDCの発行の是非は、最終的には国民の判断によって左右されることは確かである。

しかし、国民がCBDC発行の是非を判断するのは現状では難しいだろう。国民は、現金の利用に不便を感じていなことから、CBDCの必要性を強く感じていないだろう。

ただしこうした認識は、現金利用に伴う様々なコスト、それが見えにくい形で自身の負担になっていることを国民が十分に理解していないことに基づいている面がある。例えば、ATMの設置、維持には相応のコストがかかり、それは手数料を通じて銀行の顧客に転嫁されていると考えることができる。また、日本銀行は紙幣のクリーン度を維持することや、全国に紙幣を運ぶことを通じて現金利用の利便性を高めている。しかしそれには相応のコストがかかり、それは、日銀の政府への納付金の減少という形で政府の歳入減、国民負担となっているのである。

こうした現金利用に伴う社会的コストを十分に開示・説明したうえで、連絡協議会で議論されているCBDCシステムの選択肢などをわかりやすい形で提示し、そのうえで最終的に国民の判断を仰ぐ、というプロセスをとることが重要である。

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