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日銀短観6月調査から日本経済の物価高への耐性を読み解く

2022/06/29

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大企業非製造業の景況感は大きく改善する見通し

日本銀行が7月1日(金)に公表する日銀短観6月調査では、物価高に対する日本経済の耐性(抵抗力)が試されることになるだろう。

年初からの感染再拡大と蔓延防止など重点措置発動の影響で、1-3月期の実質GDPは前期比年率-0.5%と、2四半期ぶりのマイナスとなった。日銀短観3月調査でも、大企業製造業、大企業非製造業ともに業況判断DI(現状)は下落した。

今回の日銀短観6月調査は、円安の影響も受けた物価高の逆風が強まる中での調査となったが、前回調査よりも良好な結果となりそうだ。中国向け輸出が大きく振れる中での調査であるため予測はやや難しいが、大企業製造業の景況感は前回比横ばいないしは若干の低下が予想される。4月の実質輸出(日本銀行)は前月比-6.0%の大幅下落となった。これは、中国のゼロコロナ政策の影響を大きく受けたものだ。そのため、4月の鉱工業生産(確報)も前月比-1.5%と低下している。

ただし、5月以降、輸出は急速に持ち直しているとみられ、生産予測調査で5月、6月の生産見通しは大幅増加となっている。今回の調査時期はこうした輸出環境の転換点にあたっているため、上振れ、下振れ双方のリスクがある。

他方、大企業非製造業の業況判断DI(現状)は、比較的大きな幅で改善する可能性が高い。予測機関の平均値で見ると、前回比6~7ポイントの改善が見込まれている。感染リスクの低下と蔓延防止など重点措置の解除によって、個人の消費活動が改善していることが背景である。宿泊・飲食サービスを中心に、個人消費関連業種での景況感改善が見込まれる。

販売・仕入れ価格判断DIと個人消費関連業種の先行き判断DIに注目

今回の短観調査で最も注目されるのは、円安進行によって増幅される物価高の影響である。その観点から、販売・仕入れ価格判断DIの数値が重要だ。海外での原材料価格高騰、円安の影響から仕入れ価格判断DIが大幅に上昇する一方、販売価格判断DIの上昇幅が相対的に小さくなれば、企業のコスト高の価格転嫁が進まず、収益が圧迫されていることを示唆するものとなる。特に中小企業でそうした傾向が強まれば、企業の倒産や失業者増加、設備投資減少などのリスクを高めることになる。

また、物価高によって消費行動がどの程度打撃を受けているのか、という点も重要だ。短観は企業調査であるため、消費行動や消費者心理を直接知ることはできないが、関連する業種の業況から、それを推し量ることができる。それが、小売、対個人サービス、宿泊・飲食サービスである。

ただし、そうした業種の今回の業況判断DI(現状)は、感染リスクの低下と蔓延防止など重点措置の解除によって押し上げられることから、物価高の影響を読み取ることは難しい。そこで、先行きの判断DIに注目すべきだ。個人消費関連業種の先行き判断が大きく悪化すれば、そこから物価高の悪影響を読み取ることができるだろう。

短観調査を個人、企業、政府、市場がどう受け止めるかが重要に

日本銀行は、2%の物価目標達成が依然道半ばであることから、物価上昇率が上振れ、また、他国で金融引き締め策が進む中でも金融緩和を維持する構えだ。そのため、今回短観調査が示す経済、物価の動向が、日本銀行の政策変更に直接つながる可能性は低い。

しかし、日本銀行は、物価高と円安進行の悪影響を警戒する個人、企業、野党等からその政策姿勢を批判されている。また、長期金利の上昇を無理に抑え込むことが債券市場、為替市場の混乱を生じさせている。

長期金利の上昇を抑えるため、日本銀行は6月に15兆円近くの長期国債の買い入れを余儀なくされた。円安、物価高が進む中で、日本銀行は逆に金融緩和を強化している、という矛盾した状況に追い込まれているのである。

今回の短観調査を受けて、個人、企業、政府の中で、物価高と円安進行の弊害をより強く問題視する意見が強まる、あるいは、それらを受けて金融市場で日本銀行が長期金利の上昇を容認するとの観測が再度強まれば、外部からの圧力と市場の圧力の双方が、日本銀行に政策修正を促すことになる可能性がある。

日本銀行は政策修正で物価安定へのコミットメントを示すべき

現状では賃金が上昇する期待が高まらない中、2%を超える物価上昇が定着し、エネルギー・食料品以外の分野にも物価高が広がっていくとの懸念を個人が強めれば、個人は消費を抑える防衛的な姿勢を強める可能性が考えられる。

そうした事態を回避するには、各国で実施されているように、中央銀行が金融政策を引き締めて、物価安定を確保する姿勢を示すことが重要だろう。日本銀行は現実味を欠く2%の物価目標の位置づけを修正したうえで、金融政策の正常化に転じるべきだ。それを通じて物価安定へのコミットメントを示し、個人の中長期のインフレ期待の上昇を抑えることを目指すべきだ。

実際には、日本銀行が現状で本格的な正常化策を実施する可能性は低いが、債券、為替市場に混乱をもたらしている、長期金利コントロールを柔軟化する可能性はあるだろう(コラム「決定会合は現状維持も日銀のYCC柔軟化はいずれ避けられないか」、2022年6月17日)。

0.25%の10年国債金利の上限を守る姿勢を修正し、長期金利の上昇を一定程度認めることで、債券、為替市場の投機的な動きを抑えることができる。日本銀行はそうした政策を正常化ではなく柔軟化と説明するだろうが、硬直的な日本銀行の政策運営で急速な円安傾向が長期間続くとの個人の懸念を緩和させ、個人の中長期のインフレ期待の上昇を一定程度抑える効果が期待できるはずだ。それは日本経済の安定に貢献するのである。

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