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参院選挙戦でかすむ少子化対策議論:成長戦略と少子化対策の好循環を

2022/07/04

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2021年の出生率は1.30と超少子化ギリギリの水準まで低下

日本経済の潜在力、成長力を高める観点から、少子化対策は欠かせない。そして、足元では、少子化問題はより深刻度合いを増している。しかし、参院選挙戦での各党の議論を見ていると、少子化対策の優先順位は必ずしも高くなく、かすんで見えてしまう。

厚生労働省が6月に発表した人口動態統計によると、1人の女性が生涯に産むと見込まれる子どもの数を示す合計特殊出生率は、2021年に1.30と前年を0.03ポイント下回った。これは、6年連続での低下だ。出生数も過去最少の約81万人で、減少ペースが国の推計よりも6年早い。

2020年に出生率が低下した際には、新型コロナウイルス問題の影響が大きいとされた。2021年はその反動から出生率の上昇、出生数の増加が期待されていたのである。

それというのも、他国ではコロナ問題の影響で低下した出生数が、2021年には上昇する動きが見られたからだ。米国では2021年に出生者数は7年ぶりに増加し出生率も上昇した。同様の動きはフランスやドイツにもみられた。しかしそうした国よりも出生率の水準が低い日本で、2021年に出生率は低下し、他国との差が一段と開く状況となったのである。

さらに、1.30という出生率の水準も重要だ。出生率が1.30に満たない状態は超少子化と呼ばれる。日本は2003~2005年の3年間、この超少子化の状態にあった。その際には、社会全体に少子化への危機感も高まり、その効果もあって、出生率は2005年の1.26を底に持ち直し傾向を辿っていった。しかし過去6年間は再び低下を続けており、2021年には1.30と超少子化ギリギリの水準まで低下したのである。

その割には、少子化に対する危機感は国民の間で高まっておらず、参院選でも少子化対策が大きな争点とはなっていない。

育児休業給付制度の拡充を検討も財源の議論が深まらず

政府内では少子化対策の一環として、育児休業給付制度の拡充が検討されているという(朝日新聞)。同制度は、子どもが1歳になるまでの間の育児休業中に支払われる給付の制度で、給付額は最初の6か月間は休業前賃金の67%に相当する。それ以外に社会保険料の免除などもあることから、手取り額でみれば賃金の8割ほどがカバーされる手厚い制度である。

同制度は失業保険を担う雇用保険を財源としており、被保険者以外は給付を受けることができない。加入には「週の労働時間が20時間以上」、「31日以上の雇用見込み」などの要件があることから、加入できる非正規労働者は一部にとどまる。また、フリーランスや自営業者も対象外だ。そのため、育児休業給付の対象者も限られている。

そこで、非正規労働者や、出産や育児で離職した再就職希望者などを念頭に対象を拡大し、少子化対策としての有効性を高めることを政府は検討している。制度の見直しは、妥当なものだ。

ところがその財源が問題となっている。雇用保険はコロナ対策で拡充された雇用調整助成金の財源にもなっているため、その収支は急速に悪化しており、来年度には赤字に陥る可能性が出ている。

そこで、医療保険や介護保険といった他の公的保険から「協力金」を拠出させることや、全国の企業から集める「事業主拠出金」を活用することなどが検討されている。しかしそれらは、保険料を支払う個人や事業者に追加の負担を求めるものとなる。

参院選挙前に国民に追加の負担を求める政策を打ち出すことを避ける観点もあり、具体的な議論は選挙後に回されているようだ。しかし本来は選挙こそ、少子化対策のために追加の負担を受け入れるかどうかを国民に問い、判断を求める機会であるはずだ。

成長戦略と少子化対策の好循環を目指せ

今まで政府が取り組んできた少子化対策は、待機児童対策、男性育児休業取得促進策など、既婚者の子育ての環境を改善させることが中心だった。育児休業給付制度の拡充についても同様だ。

それらも重要ではあるが、一方で、出生率低下の背景には、晩婚化、晩産化、そして婚姻の減少もある。2021年は婚姻数が50.1万件あまりとなり、戦後最少記録を更新した。出生率と同様に、新型コロナウイルスの問題がやや薄れる中で、婚姻数が増加するとの期待は大きく裏切られた。

政府の少子化対策は、個人の価値観を尊重しつつも、経済的な理由で婚姻をためらう若者を支援することも含まれるべきだ。そのためには、結婚し、子供を持つ、育てていくことができる経済力向上への将来期待を高めることが必要である。経済の潜在力を高めることを目指す政府の成長戦略は、この点から、婚姻、出生を促すことにもつながる。その一方、それらが今度は経済の成長力を高める形となり好循環するのである。

来年4月1日には、「こども家庭庁」が発足する予定だ。子供政策の司令塔になるとされるが、少子化対策を立案、実行する機能はまだ十分に見えてこない。こども家庭庁には、多方面に及ぶ少子化対策を一元的に統括し、推進する役割を担うことを期待したい。そしてその少子化対策は、政府の成長戦略の一環として位置づけることも重要である。

(参考資料)
「育休給付、非正規に拡大案 財源の確保課題 政府検討」、2022年7月2日、朝日新聞
「想定以上の少子化、対策急務 育休給付、多様な働き方に対応へ」、2022年7月2日、朝日新聞
「(社説)進む少子化 かけ声倒れに終止符を」、2022年6月10日、朝日新聞
「21年の出生率1.30 少子化対策見劣り、最低に迫る-6年連続低下」、2022年6月3日、日本経済新聞電子版
「出生率1.30、政府は少子化非常事態宣言を 若者支援急務-編集委員 大林 尚」、2022年6月3日、日本経済新聞電子版

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