フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 日米財務相会談:為替の安定と対ロ制裁を議論

日米財務相会談:為替の安定と対ロ制裁を議論

2022/07/12

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

為替の協力という文言は主要国間での一般論に過ぎない

来日しているイエレン米財務長官と鈴木財務大臣の日米財務相会談が12日午後に行われ、その後に共同声明が公表された。その内容は基本的にはG7(先進7か国)中央銀行総裁会議、あるいはG7サミットで合意されたものを再確認したものであり、新味はないように見受けられる。

声明の内容は、対ロ制裁、ウクライナ支援、世界のエネルギ・食糧問題、債務国問題、国際課税問題、気候変動対策など極めて多岐にわたっており、それらすべてについて詳細に議論したとは到底思えない。

声明文の中で特に注目されたのは、「為替市場に関して緊密に協議し、為替の問題について適切に協力する」との文言である。ここだけ見ると、円安進行に対して日米が協調して対応することで合意したようにも見え、円安に苦しむ日本にとっては米国の助けが得られるとの観測を生じさせるものでもある。

しかしこの文言は、ロシアのウクライナ侵攻が生み出している様々な世界の経済問題への対応を論じているパートの中にあり、また、「G7 及び G20 のコミットメントに沿って」との説明も付されている。

つまりこれは、円安問題、ドル円レートの問題について述べているのではなく、主要国が対応すべき一般論を述べているに過ぎない。実際には、日本が苦しむ円安進行について、米国が支援の手を差し伸べてくれることはないのである。為替に関する文言がやや不自然な形で声明文に組み込まれたのは、日本側が米国側に強く働きかけたものと推察される。

為替介入は通貨高競争・戦争につながるリスク

鈴木財務大臣は「必要な場合には適切に対応」との発言を繰り返し、為替介入を匂わすことで円安をけん制しているが、その実行可能性は低い。日本が為替介入を実施するには、協調介入はもちろんのこと単独介入であっても、米国を中心に他の主要国の承認が事実上必要となるが、その承認が得られる可能性は低い。物価高に苦しんでいるのはどこの国も同じであり、どこの国もが自国通貨高を望んでいる。そうしたなか、仮に米国が日本に円買い介入を認めると、それをきっかけに他の主要国にも自国通貨買いの為替介入が広がり、通貨高競争、通貨高戦争の様相にまで一気に発展しかねない。

米国が日本の為替介入を認めないのは、4月の日米財務相会談以降変わらない。為替市場では、今回の日米財務相会談が日本の為替介入を後押しするとの期待は、もともとかなり低かったと考えられる。

日本側の政策によって唯一為替市場に影響を与えることができるのは、日本銀行の金融政策の修正だ。一般に、為替市場を目標に金融政策を行うことは正しくはないが、金融政策の柔軟化が為替市場の安定に一定程度寄与する可能性はあるだろう。

ロシア産原油の上限価格設定が最大の議題か

今回の日米財務相会談の最大の議題は、ロシアに対する制裁措置と考えられる。特に先般のG7サミットで決まったロシア産原油の取引価格に上限を設ける措置についての議論である。これは、イエレン財務長官が強く後押しをしている(コラム「ロシア産原油の取引価格上限設定は『諸刃の剣』:世界経済・金融市場混乱のリスクも」、2022年7月8日)。

上限価格の設定の議論は、先般、ロシアがサハリン2で日本企業の資産を事実上接収する可能性を示すといった報復措置を招いた、直接的なきっかけになったとみられる(コラム「サハリン2の資産をロシア企業に無償譲渡させる大統領令」、2022年7月1日)。報復を恐れて日本が上限価格設定についてG7の協調策に加わらないことは考えられないが、会談を通じて、ロシア側の報復措置でG7の結束が乱れることがないように、日本側の動きを確認する狙いも、イエレン財務長官にはあったのではないか。

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

新着コンテンツ