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さらなる国民的議論が求められる防衛費の大幅増額

2022/07/19

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来年度予算の概算要求基準で防衛費を例外的な扱いに

政府は今年6月に閣議決定した「骨太の方針」で、ロシアによるウクライナ侵略などを踏まえ、防衛力について「5年以内に抜本的に強化する」と位置づけた。また、北大西洋条約機構(NATO)が防衛費のGDP比2%以上を目標としていることにも言及した。また先般の参院選で自民党は、「NATO諸国の国防予算の対GDP比目標(2%以上)も念頭に、真に必要な防衛関係費を積み上げ、来年度から5年以内に、防衛力の抜本的強化に必要な予算水準の達成を目指す」ことを公約に掲げた。

こうした政府、自民党の方針に従って、来年度予算で防衛費を大幅に増額する予算編成プロセスが始まりつつある。政府は、2023年度予算案の概算要求基準で、防衛費については例外的に上限を設けない方針だ。さらに、金額を定めずに提案する「事項要求」とする方向である。「事項要求」は、2021年度、2022年度予算編成で、新型コロナウイルス対策予算について認められた。

政府は年末にかけて安全保障政策の重要な指針である「戦略3文書」の改訂を行う。10年程度の外交・防衛の基本方針となるのが「国家安全保障戦略」だ。それを踏まえて策定されるのが10年程度の防衛費の水準を決める「防衛計画の大綱」、さらにそのもとで5年間の防衛費総額や主要装備の数量などを決めるのが「中期防衛力整備計画」となる。各年度の防衛費予算は、この「中期防衛力整備計画」に沿って決定される。

ところが今回は、この4つの作業がほぼ同時に進められる異例の形となっている。政府は、2023年度予算案の概算要求基準で防衛費に上限を設けず、また金額を定めないことで、自由な発想に基づく提案を引き出し、それを「戦略3文書」の改訂につなげていく考えのようだ。

防衛費倍増は2つの意味で日本にとって大きな変化

来年度予算では、防衛省は、これまで後回しにされがちだった装備品の維持・整備や弾薬の取得、研究開発、施設整備などについて、優先的に増額を求めるとみられる。これらは戦争を続ける「継戦能力」に関わるものだ。その後に、次年度予算以降も視野に入れて、戦闘に直接使われる装備品、つまり兵器に充てる予算を拡充していく方針なのではないか。

相手の拠点をたたく長距離巡航ミサイルなど「反撃能力」に多額の経費をかける可能性が考えられる。さらに、攻撃型無人機の開発、宇宙やサイバー、電磁波といった新領域の研究開発費の増額も視野に入ってくる。

防衛費を5年以内にGDP比2%にする場合、来年度からそれを始めれば、2023年度予算は、2022年度の5.4兆円から6兆円超に増える計算となる。例年とは桁違いの増額だ。

2023年度予算の防衛費について安倍元首相は、「6兆円後半から7兆円が見えるぐらいが相当な額」としていた。茂木幹事長も「6兆円台半ば」という数字を挙げていた。こうした議論は、来年度の防衛費が、単純に5年かけて防衛費のGDP比2%以上、つまり倍増するペースを上回る可能性があることを示唆している。

仮に日本が防衛費を倍増し10兆円程度とすれば、防衛費は世界の中で米国、中国に次ぐ第3位となる。経済規模に見合った軍事大国となる訳だが、それは戦後の日本が歩んできた姿とは異なるものだ。さらに防衛費の増額は、歳出改革に取り組んできた今までの財政運営の在り方も大きく修正するものでもあり、2つの意味で大きな変化となる。この点を、国民はしっかりと認識する必要があるだろう。

防衛費増額の議論が高まる中、健全な財政運営の観点から、今こそペイアズユーゴー原則の導入も検討すべきではないか(コラム「日本でも財政健全化のためペイアズユーゴーの導入検討を」、2022年7月15日)。

国民的議論をさらに慎重に進めていく必要

岸田首相は防衛費の増額について、「数字が先にありきではない」と説明している。NATOは、「締約国に対する武力攻撃を全締約国に対する攻撃とみなし、集団的自衛権を行使する」ことが加盟国に求められている。これと日米安全保障条約などの下で日本が置かれた立場は異なっており、単純にNATO諸国の国防予算のGDP比2%以上の目標を日本に適用するのは妥当ではないだろう。

NATOの国防予算GDP比2%は日本の防衛費GDP比率とは算出方法が異なっており、GDP比1%程度の日本の防衛費が、国際基準に照らして必ずしも小さいわけではないということを、政府は少し前までは主張していたはずだ。

防衛費増額の財源をどう確保するのかも大きな問題だ。岸田首相は防衛費の増額について「内容、金額、財源の3点セットで議論を行う」とし、財源の議論を進める考えを示しているが、自民党内には安易に「国債で賄う」との意見も強い。他方、公明党の山口代表は、「安易に頼るべきではない」と慎重な姿勢を示している。

5兆円の防衛費増額を消費税率の引き上げで賄う場合には、税率2%程度引き上げることが必要となる。防衛費大幅増額を掲げた自民党が先般の参院選で大勝したからといって、国民がすべてそれを支持したという訳ではないだろう。次世代への負担を高めずに防衛費の大幅増額を実現するためには、社会保障費の大幅抑制や消費税率の2%引き上げなどを受け入れる覚悟が果たしてあるのか、真摯に国民に問うプロセスが必要だろう。拙速な対応を避け、国民的議論をさらに進めていくことが求められる。

(参考資料)
「概算要求基準、防衛費の上限撤廃 必要経費積み上げ」、2022年7月16日、日本経済新聞電子版
「防衛予算「事項要求」へ 来年度概算 安保指針の改定待ち」、2022年7月16日、東京読売新聞
「防衛費の大幅増が焦点 自民公約、財源も課題 23年度当初予算案」、2022年7月14日、朝日新聞

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