「同じ活動・同じリスクには同じ規制を適用する」との原則

主要国の中央銀行や金融監督当局で構成される金融安定理事会（FSB）は7月11日に、暗号資産関連の活動に対する国際的な規制・監督に関するステートメントを公表した。さらに、今年10月に行われるG20（主要20か国・地域）財務相・中央銀行総裁会議で、ステーブルコインやその他の暗号資産に対する規制・監督案について提言すると発表した。

FSBはこれまでは、暗号資産は金融システム上の大きなリスクとはなっていないとの認識から、主な対応は監視にとどめてきた。しかし、最近生じている暗号資産市場や暗号資産業界の混乱を受けて、いよいよ本格的な規制強化に舵を切ったのである。暗号資産の保有が伝統的な金融機関の間に広がるとともに、暗号資産市場と金融市場との相互連関性が強まっていることから、暗号資産市場が金融システムの安定を損ねるリスクが高まっているとの判断が背景にある。

ステートメントでは、「ある市場プレーヤーの破綻が、投資家に大きな損失を与える可能性があるほか、市場の信頼を脅かすことに加え、暗号資産エコシステムの他の部分にもリスクが素早く伝わることがある」として、金融システム上のリスクを指摘している。

FSBが特に強調しているのは、「同じ活動・同じリスクには同じ規制を適用する」との原則である。暗号資産が従来の金融取引と同様のリスクをもたらす場合には、同じ規制を課す必要があるとして、「暗号資産と関連市場には、国内的にも国際的にも効果的な規制と監督を行わなければならない」、「暗号資産の根底にある経済的・金融的性質に鑑みて同等の規制の対象となる」と訴えている。

ステーブルコインへの規制が焦点に

FSBが特に規制強化の必要性を訴えるのが、法定通貨と価値を連動させるステーブルコインである。それはビットコインなど価格変動が激しい暗号資産とは異なり、価値の安定を背景に決済手段として広く利用されることから、伝統的な金融取引への影響がより大きくなる可能性がある。

FSBは、「金融システムの主流となり、複数の法域で決済手段及び／又は価値貯蔵手段として広く利用されるステーブルコインは、適切な規制がなければ、金融安定に重大なリスクをもたらす可能性がある。そのようなステーブルコインは、高度な規制と透明性の基準にしたがい、価値の安定を保つ裏付け資産を常に維持し、関連する国際基準を満たす必要がある」と指摘している。

他方、BIS決済・市場インフラ委員会（CPMI）および証券監督者国際機構（IOSCO）は7月13日に、報告書「ステーブルコインに対する『金融市場インフラのための原則』の適用」を公表した。ステーブルコインがもたらすリスクについて、金融システムへの影響に加えて、投資家保護の観点にも焦点をあてている。

FSB メンバーは、「CPMI-IOSCO のガイダンスである、『ステーブルコインに対する金融市場インフラのための原則の適用』を歓迎する。これは、主に決済に用いられるシステム上重要なステーブルコインに、『同じ活動・同じリスクには同じ規制を適用する』との原則を適用する上での大きな前進である」と評価している。

FSBが10月にステーブルコインやその他の暗号資産に対する規制・監督案の提言を示せば、今後、主要国の間で統一的な規制・監督の法制化が大きく進むことになるだろう。ステーブルコイン、暗号資産への規制強化はいよいよ世界規模で本格化するのである。

ただしFSBは、「効果的な規制枠組みは、暗号資産の新たな特徴を考慮し、その背後にある技術の潜在的な恩恵を活用しつつ」とも述べており、ステーブルコインやその他の暗号資産を用いた分散型金融（DeFi）の潜在的な有効性を生かすことへの配慮も、あわせて示している。

（参考資料）
「暗号資産関連の活動に対する国際的な規制・監督に関するステートメント（日本銀行仮訳）」（原題：FSB Statement on International Regulation and Supervision of Crypto-asset Activities）、2022年7月11日、FSB（金融安定理事会） 「ステーブルコインに既存資金決済並みの規制、IOSCOが採用発表」、2022年7月13日、ロイター通信ニュース
「暗号資産規制案、10月提示＝リスクを懸念―主要国金融当局」、2022年7月11日、時事通信ニュース
「暗号資産のグローバル規制、FSBが10月に提案　市場混乱受け」、2022年7月11日、ロイター通信ニュース

執筆者情報

• 木内 登英

  エグゼクティブ・エコノミスト