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FOMCを前に落ち着きを取り戻す日本の為替・債券市場:日銀と海外投資家との戦いは終わったのか

2022/07/26

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日本銀行は海外投資家との戦いに勝利したのか

7月26・27日の米連邦公開市場委員会(FOMC)を前に、日本の為替、債券市場は落ちつきを取り戻している。6月のFOMCの直前には、米国の利上げ加速観測から円安が一段と進む一方、10年国債利回りが日本銀行の目標値の変動レンジ上限である0.25%を一時的に超える局面も見られ、金融市場で緊張感が一気に高まっていた。

この際には、日本銀行が0.25%の上限を守り切れなくなるとの観測から、海外投資家が10年国債の売り持ち(ショートポジション)を大きく膨らませたとされる。さらに、日本銀行が直接利回りに目標を設定していない、10年未満のゾーンの長期国債や10年超の超長期国債も売り込まれ、イールドカーブの形状も大きく歪んでしまった。実際に日本銀行が0.25%の上限を超えて10年国債の利回り上昇を認めるなどの柔軟化措置を講じれば、ショートポジションを大きく膨らませた投資家は、大きな利益を上げることができたのである。

しかし、足元では10年国債利回りは上限である0.25%を下回る0.20%台であり、0.2%を割り込む局面も見られるようになった。国債のイールドカーブの歪みも解消されてきた。さらに一時139円台まで進んだドル円レートは136円台まで戻している。日本銀行は、10年国債利回りの目標の上限である0.25%を守るために10年国債の買い入れを6月には16兆円超まで拡大させるなど、大きな代償を払ったものの、「海外投資家との戦いに勝利した」との見方が出ている。

急速な長期金利上昇、円安は終盤戦か

しかし、足もとで10年国債利回りが低下したのは、日本銀行のオペレーションの効果というよりも、米国の長期金利が低下したことによるところが大きい。6月には一時3.5%程度まで上昇していた米国10年国債利回りは、足元では2.7%台まで低下している。これが、日本の長期国債の利回り上昇圧力、そして円安圧力が和らいだ背景であり、日本銀行のオペレーションが市場の安定回復につながったとは言えない。

米国では米連邦準備制度理事会(FRB)がなお急速な利上げを続けているが、米国の景気後退観測も広まる中、この先は利上げペースがかなり鈍化する、あるいは来年には利下げに転じるとの見方も増えている。金融市場がこのような観測を強める中では、米国の長期金利の上昇局面、それと連動してきた円安進行も終盤戦に入ったと考えられる。

ただし、米国長期金利の上昇、円安進行は終盤戦に入ったとしても完全に終わったとは言い切れない。7月26・27日のFOMCでFRBの積極的な利上げ姿勢が再度確認されれば、再び円安が進行するきっかけとなる可能性がある。ドル円レートは140円程度がピークとみておきたいが、140円台前半まで円安が進む可能性は残されているだろう(コラム「円安はどこまで進む?: 1ドル140円は通過点か」、2022年7月20日)。

そして、日本の金融市場で為替・債券市場が再び動揺し、最終的に日本銀行が10年国債利回りの上昇を一定程度認める、イールドカーブ・コントロール(YCC)の柔軟化に踏み切る可能性は、従来よりも低下しているとは言え、まだ残されている。

長期国債の買い入れ拡大は事実上の金融緩和強化で副作用を高める

6月の為替、債券市場の混乱は、日本銀行のYCCの構造的な欠陥を浮き彫りにした。利回り上昇を回避するために、日本銀行は長期国債の大量買入れを強いられたのである。これは日本銀行が望んでいない金融緩和の強化を図らずも行ったことになる。

7月21日の金融政策決定会合後の記者会見で、長期国債の大量買入れは金融緩和の強化でない、と黒田総裁は説明していたが、この説明は現在の金融政策の枠組みとは相容れないものだ。日本銀行は「物価上昇率が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続する」というオーバーシュート型コミットメントを導入している。これは、日本銀行の負債であるマネーの増加が金融緩和効果を持つことを前提にした方針である。日本銀行がバランスシートの資産側で国債買い入れを増やせば、負債側でマネタリーベースが増える。

総裁自身はマネタリーベース拡大による効果には懐疑的であり、政策効果は量でなく金利から生じると考えているのだろうが、オーバーシュート型コミットメントの効果を自ら否定するような説明は問題だろう。

また、日本銀行が2016年9月のYCCを導入したのは、目標を量から金利に変え長期国債の買い入れを減らすことで、将来の日本銀行の財務の悪化リスクを軽減すること、そして日本銀行が大量に国債を買い入れることで、流動性の低下など債券市場の機能が低下するリスクを軽減することに狙いがあったと思われる。つまり、YCCを導入することで副作用の軽減を狙ったのである。

しかし、足元では日本銀行が長期国債の買い入れの急拡大を余儀なくされ、副作用のリスクが大きく高まる結果となってしまっている。皮肉なことに副作用軽減策であるYCCが副作用を高めるという構造的な欠陥が浮き彫りになったのである。

日本銀行はYCCの柔軟化を実施へ

この点を踏まえると、この先日本銀行は、10年国債利回りの上昇を一定程度容認するなどYCCの柔軟化を進め、いずれは廃止することが予想される。黒田体制下でYCCの柔軟化が実施されない場合には、2023年4月から始まる次期体制の下で、比較的早い時期に柔軟化が実施されるとみておきたい。

来春には、世界的な金利上昇圧力は収まっていることが予想され、そのもとでは10年国債利回りが大きく上昇するリスクが比較的低い環境の下で、日本銀行は柔軟化策を円滑に実施することができるだろう。

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