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継続するポンド不安と各国政策の手詰まり感:国際協調に綻び

2022/09/27

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金融引き締めと財政拡張のポリシーミックスは上手く行くのか

物価高を助長してしまう自国通貨安に何とか歯止めをかけようと、各国は躍起になっている。日本を除く主要国は、米国の急速な利上げに懸命についていくことで、対ドルでの自国通貨安を食い止めようとしている。

しかし多くの国、特に欧州の国々は、米国よりも景気情勢が厳しい。そうした中で米国の急速な利上げに追随すれば、国内景気は犠牲となってしまう。他方で、金融引き締めを控えて通貨安を容認すれば、それがもたらす物価高によって、やはり国内経済に打撃が及ぶのである。こうして各国の政策は、ディレンマに直面している。

そこで金融政策を為替の安定に充てる一方、財政政策を国内景気の支援に充てるという「金融引き締めと財政拡張のポリシーミックス」を各国が検討するのは自然なことだろう。しかし、それがまさに裏目に出てしまったのが英国である(コラム「円急落から英ポンド急落へ:にわかに不安定化する世界の金融市場」、2022年9月26日)。

英国新政権が示した大型減税策に対して、市場は非常に悪く反応し、英国では国債価格の急落、ポンドの急落が先週末から生じている。長期金利の上昇やポンド安によるさらなる物価高によって、大型減税策の景気浮揚効果は相殺されてしまうだろう。

ポンド急落を受けて、英国中銀のベイリー総裁は26日に、大幅な利上げを躊躇しないという声明を発表した。しかしそれを受けて、ポンドは再び下落している。市場では英国中銀がポンドを支えるために、11月までに2.0%の追加利上げを行い、政策金利は来年には6.25%にまで達するとの見通しが織り込まれた。

ユーロに続いて、ポンドについても対ドルで1を下回る「パリティ(等価)割れ」の観測も強まっている。

「通貨戦争」のリスクをはらむ為替介入が次の選択肢か(国際協調の綻び第1弾)

このように、英国での財政拡張策の発表が金融市場の大きな混乱を招いたことで、他国においては、財政政策で国内経済を支えるという施策に踏み切ることが難しくなった感がある。「金融引き締めと財政拡張のポリシーミックス」を選択することに支障が生じる場合には、次の選択肢は、為替介入を通じて為替の安定を確保し、それが上手くいくようであれば、国内経済に配慮して金融引き締めのペースを緩める、というポリシーミックスなのではないか。

今後もポンドの下落に歯止めが掛からないようであれば、英国もポンド買いの単独為替介入を検討し始めるだろう。日本が単独為替介入の道を先週開いたことから、実施のハードルはやや下がったと言える。

そして、多くの主要国が為替と国内経済の安定確保の観点から単独介入を次々と実施するようになれば、今まで先進国が築き上げてきた為替市場における国際協調は大いに揺らぐことになる。さらに先進国が競って自国通貨安を回避、あるいは通貨高を目指す「通貨戦争」の様相を強める可能性があるだろう。これは、インフレ圧力を他国に押し付け合う自国中心主義的な政策であり、国際協調の精神からは離れる。そうした国際協調の綻びは、金融市場での先行き不安を高めることにもなるだろう。

米国利上げ局面で強まる新興国市場の不安定化

ただし、各国がそれぞれ単独介入を実施したとしても、それが為替の安定にどの程度貢献するかは不透明である。27日の東京市場では1ドル144円台での推移となっており、146円台から140円台まで5円程度の円高を一気に生じさせた先週の為替介入の効果は、かなり短期間で薄れてしまった感が強い。

主要各国間で「通貨戦争」の様相が強まると同時に、あるいはその後に、各国が米国の急速な利上げをあからさまに批判する局面が生じる可能性が考えられるのではないか。

米国の利上げの局面では、常に新興国は米国の金融政策を批判してきた。米国から新興国に流れ込んだ資金が米国の利上げと共に逆流し、自国の通貨安や株式・債券市場を混乱させるためだ。1998年のアジア通貨危機も同様な局面で生じたものだ。

既に資金の逆流によって新興国市場は不安定化している。また、ドル高が進む中、ドル建て国債の返済負担が自国通貨建てで膨らみ、デフォルト(債務不履行)懸念が高まることで、通貨安や株式・債券市場の混乱が増幅されていく低所得国も出てきている。

先進各国が米国批判を高める可能性も(国際協調の綻び第2弾)

ただし、現局面での大きな特徴は、まさに足元のポンド急落に表れているように、先進国通貨が大幅に下落し、先進国市場が混乱していることだ。そのため、先進各国が今後米国に対して、急速な利上げ姿勢を見直すように、要請を強めてくる可能性があるのではないか。

ただし、米国は為替ではなく自国の経済・物価を睨んで金融政策を決めるとの姿勢を崩さず、いわゆるビナイン・ネグレクト(優雅なる無視)を続けるだろう。その結果、米国とその他先進国との間の関係はよりぎくしゃくしたものとなり、国際協調の綻びはさらに広がるのである。

そうした中、各国は、ドル高・自国通貨安の進展が自国経済や金融市場にもたらす悪影響だけでなく、行き過ぎたドルが先行き暴落に転じ、それが経済、金融市場、そして金融システムに与える深刻な影響を心配し始めるのではないか。

行き過ぎたドル高の修正で国際協調が再び強化される可能性も(国際協調の再構築)

現状では、米国は物価抑制効果を持つドル高を歓迎しており、ドル高のデメリットを感じていない。確かに名目実効ドルレートはそれほど高水準ではない。しかし、貿易相手国との物価格差を調整した実質実効ドルレートは、1985年の歴史的高水準にまで近づいている。このままドル高が進めば、米企業の輸出競争力は低下していき、輸出の鈍化が経済の減速傾向を強めると同時に、対外収支の悪化を通じてドルの信認を低下させるようになるだろう(コラム「歴史的円安・ドル高はどのようにして終わるか:プラザ合意Ⅱの可能性も」、2022年9月21日)。

そうなれば、米国はドル高の弊害を強く意識し、また、ドルの暴落を避けるため、行き過ぎたドル高を緩やかに修正していくことが国益に適う、と考えるようになるだろう。この時点で、米国と他国との利害は一致し、国際協調は再び強まって、協力してドルの秩序立った調整に動くことが見込まれる。まさに、「プラザ合意Ⅱ」である。その際には、ドル売りの協調介入も選択肢に入ってくる。

このように、米国で急速な利上げが続く中、この先進国間での国際協調が大きく揺らいだ後、ドル暴落への不安が協調体制を復活させる求心力になるといったダイナミックな展開が、国際金融の場で視界に入ってくるのである。

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