フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 来年の春闘で5%の賃上げ目標:日銀の物価目標達成に追い風となるか?

来年の春闘で5%の賃上げ目標:日銀の物価目標達成に追い風となるか?

2022/10/19

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

連合は来年の賃上げ目標を1%ポイント引き上げへ

労働組合の中央組織である連合は、来年の春闘での賃上げ目標を「5%程度」に引き上げる方向で調整に入った、と18日に報じられた。過去7年間は目標を「4%程度」としてきたが、これを1%ポイント引き上げる。また、ベースアップの目標についても、従来の「2%程度」を、来年は同じく1%ポイント引き上げ、「3%程度」とする方向である。目標引き上げの追い風となっているのは、今年の消費者物価上昇率の上振れだ。春闘の賃上げは、前年の物価上昇率の実績を反映する傾向が強い。

連合によれば2022年の春闘での平均賃上げ率は+2.07%と2021年の+1.78%を0.3%ポイント程度上回った。平均賃上げ率は+2%を上回ったが、ここには+1.8%程度と推定される定期昇給分が含まれる。しかし、厚生労働省の毎月勤労統計などで示される一人当たり平均賃金上昇率は、定期昇給分を除くベースアップにより近い動きを示す。それは、一定数の定年退職者が存在することによる。

今年のベースアップは概ね0%台半ば程度と考えられる。現状では、消費者物価上昇率は前年同月比で+3%に近いことから、賃金上昇は物価上昇に全く追いついておらず、実質賃金の低下が個人消費を圧迫している状況である。

来年は実質賃金が上昇し個人消費を支える可能性も

他方、来年には、連合がベースアップの目標を1%ポイント引き上げるのに応じて、同じ幅でベースアップが押し上げられる場合には、それは+1%台半ば程度となる。現在の消費者物価上昇率は、食料・エネルギーを中心に海外の市況の上昇によって押し上げられている面が強く、食料・エネルギーを除くコアコア指数は、現在、前年比で+1.0%程度である。仮に来年もこの水準が維持され、消費者物価上昇率もその水準となる場合には、ベースアップがそれを+0%台半ば程度上回ることになる。その結果、実質賃金上昇率は+0%台半ば程度となり、個人消費を支えることが期待される。

賃金上昇率が上振れても1年限り

しかし、実際に来年の春闘の賃上げ率が今年の水準を1%程度も上回るかどうかは、今後の景気情勢によるだろう。世界経済には既に減速が広がり始めており、国際通貨基金(IMF)は、来年には3分の1程度の地域で経済が縮小する、との厳しい見通しを示している。海外景気の影響から国内景気の先行きにも懸念が高まれば、労働組合側も雇用への不安に配慮して、高い賃上げ要求を抑えることになるだろう。

他方、来年初めの段階で経済が比較的安定していれば、1%台半ば程度のベースアップと3%程度の賃上げ(含む定期昇給分)となる可能性も考えられるところだ。ただしその場合でも、一時的な物価高の影響を受けた一時的な高い賃上げ、つまり1年限りに終わるだろう。日本銀行が期待しているような、賃金上昇を伴う安定的な2%の物価上昇が達成できる訳ではない。

経済の潜在力が高まらないと持続的な賃金・物価の上昇は実現しない

日本銀行が推計した潜在成長率を用いて一人当たり労働生産性上昇率を計算すると、足元で0%程度である。労働分配率に変化がない場合には、実質賃金上昇率は労働生産性上昇率と一致するはずであり、その水準は0%程度である。労働生産性上昇率が高まるといった前向きの構造変化が起こらない限り、賃金上昇率は物価上昇率と同程度の水準に収れんし、高い実質賃金上昇率が持続することはないだろう。

過去を振り返ってみても、名目賃金上昇率が潜在成長率の水準を長期間、大きく上回ったことはない。潜在成長率が名目賃金上昇率の上限となってきたのである(図表)。

こうした点から、海外市況高、円安の影響を受けた今年の物価上昇率の一時的な上振れの効果で、仮に来年の賃金上昇率が上振れることがあっても、それは一時的である。生産性上昇率など経済の潜在力に大きく影響を受ける賃金、物価のトレンドに大きな変化は生じない。

図表 潜在成長率と名目賃金上昇率

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

新着コンテンツ