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物価高は円安が主導する局面に:9月コアCPIは31年ぶりの3%台

2022/10/21

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9月コアCPI(消費者物価、除く生鮮食品)は3%に

総務省が21日に発表した9月分消費者物価統計で、コアCPI(生鮮食品を除く総合指数)は前年同月比+3.0%と、前月の同+2.8%を上回った。コアCPIが前年比で3%に達するのは2014年9月以来、消費税率引き上げの影響を除くと1991年8月以来31年ぶりのことである。生鮮食品を除く食料、家電製品など家庭用耐久財、宿泊料の上昇などが前年比上昇率を高めた。

次回10月分では、前年の携帯電話通話料の値下げの影響が剥落し0.2%ポイント強押し上げられることなどから、コアCPIの前年比は+3.4%程度に一段と上昇すると予想される。

さらに先行きについては、来年1月にコアCPIの前年比は+3.8%に達し、そこでピークをつけると現時点では見込んでおきたい。9月に食料(除く酒類)、エネルギーを除くコアコア指数は前年比+0.9%となったが、海外での食料、エネルギーの市況の上昇が止まる中、コアCPIの前年比も1年後には同程度の水準まで低下していくことが予想される。2022年度平均は+3.0%、2023年度平均は+1.6%と現時点では予想する。

ただし、こうした見通しは、ドル円レートが今年年末に1ドル160円でピークを付け、その後円高傾向に転じることを前提としている。円安がそれ以上に進行すれば、物価上昇率の先行きの見通しは一段と上振れる。

円安が輸入物価高を主導する

日本銀行が10月13日に発表した企業物価統計(9月速報)は、日本の物価高のけん引役が、海外での商品市況から円安にシフトしてきていることを裏付けた。9月の円ベースの輸入物価は前年同月比+48.0%と前月の同+43.2%から上昇幅を拡大させた。他方、契約通貨ベースの輸入物価は前年同月比+21.0%と4か月連続で上昇幅が縮小してきている(コラム「為替介入でも止まらない円安が物価高懸念の中心に」、2022年10月13日)。

日本が海外から輸入する原材料はほぼドル建てで契約されている。そのため、契約通貨ベースの輸入物価上昇率は海外市場での財の価格の変化を主に反映している。この点から、この円ベースの輸入物価上昇率と契約通貨ベースの輸入物価上昇率の差が、円安進行による輸入物価押し上げ効果に当たるのである。

その差は9月に+27.0%ポイントと、現在の物価上昇局面では初めて、契約通貨ベースの輸入物価上昇率の+21.0%を上回った。このことは、輸入を通じた日本の物価上昇のけん引役が、海外での食料・エネルギー価格の上昇から円安へとシフトしたことを意味する。

日本銀行の政策修正への期待は高まるが。。。

その結果、日本の物価高を、国内政策の手が及ばない海外の商品市況高のせいにする議論は根拠を失ってきている。日本政府が担う為替政策、為替市場に影響を与える日本銀行の金融政策が、国内物価動向、先行きの物価見通しを決める大きな要因となってきたのである。

年初来、円は対ドルで30%安くなっている。内閣府の日本経済モデルによると、これは、個人消費デフレータを1年間で0.52%、企業物価を1年間で2.49%押し上げる計算となる。

政府による為替介入実施後も円安進行に歯止めがかからず、20日には1ドル150円台に乗せた(コラム「1ドル150円を超えて円安が進行:円安の一巡には米国金融政策姿勢の修正を待つしかない」、2022年10月20日)。為替介入の効果について期待が大きく剥落するなか、日本銀行が為替の安定を通じた物価安定の確保に強い姿勢を示し、それを裏付ける政策修正を行うことへの期待は、今後さらに高まっていくだろう。

ところが黒田総裁の下で日本銀行は、賃金上昇を伴う形で物価上昇率が目標値の2%を達成できるまで、現在の金融緩和策を修正しない方針だ。さらに、為替の安定に配慮して金融政策を修正することも強く否定しているのである。

賃金上昇を伴う安定的な2%の物価上昇は達成できない

労働組合の中央組織である連合は、来年の春闘での賃上げ目標を「5%程度」に引き上げる方針だ。過去7年間は目標を「4%程度」としてきたが、これを1%ポイント引き上げる。

また、ベースアップの目標についても、従来の「2%程度」を、来年は同じく1%ポイント引き上げ、「3%程度」とする方向である。目標引き上げの追い風となっているのは、今年の消費者物価上昇率の上振れだ。春闘の賃上げは、前年の物価上昇率の実績を反映する傾向が強い。

来年には、連合がベースアップの目標を1%ポイント引き上げるのに応じて、同じ幅でベースアップが押し上げられる場合には、それは+1%台半ば程度となる。現在の消費者物価上昇率は、食料・エネルギーを中心に海外の市況の上昇によって押し上げられている面が強く、食料(除く酒類)・エネルギーを除くコアコア指数は、9月に前年同月比で+0.9%である。仮に来年もこの水準が維持され、消費者物価上昇率もその水準となる場合には、ベースアップがそれを+0%台半ば程度上回ることになる。その結果、つまり実質賃金上昇率が+0%台半ば程度となり、個人消費を支えることが期待される。

ただしその場合でも、一時的な物価高の影響を受けた一時的な高い賃上げ、つまり1年限りに終わるだろう。日本銀行が期待しているような、賃金上昇を伴う安定的な2%の物価上昇が達成できる訳ではないのである。

労働生産性上昇率が高まるといった前向きの構造変化が起こらない限り、賃金上昇率は物価上昇率と同程度の水準に収れんし、高い実質賃金上昇率が持続することはないだろう。

米国の金融政策姿勢が変化することが円安の流れに歯止め

そうなれば、日本銀行が政策修正を行うことで、円安の流れと物価高の流れに歯止めがかかる可能性は、来年に入っても見えてこないことになる。しかし、来年4月に黒田総裁が退任した後には、政策は次第に柔軟化されていくことが期待される。

おそらくその前に、米国の金融政策姿勢が変化することで、円安の流れには歯止めがかかっていくのではないか(コラム「1ドル150円を超えて円安が進行:円安の一巡には米国金融政策姿勢の修正を待つしかない」、2022年10月20日)。

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