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FRBの潜在成長率推計値の引き下げが金融政策に与える影響

2022/11/01

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潜在成長率推計値の引き下げはFRBの利上げ姿勢をより後押しする可能性

9月20、21日に開かれた前回米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨には、米連邦準備制度理事会(FRB)のスタッフが、潜在成長率の推計値を引き下げた、との記述があった。生産性上昇率の継続的な下振れ、労働参加率の下振れを受けた措置、との説明である。その結果、今年の需給ギャップ(GDPギャップ)の推計値を大幅に引き上げた、としている。

FRBの潜在成長率の推計方法や推計結果については明らかにされていない。ただし、標準的な推計方法であれば、GDPの実績値を各生産要素(労働、資本ストック、生産性)で説明する生産関数を推計したうえで、各生産要素のトレンドを代入することで潜在GDPを算出する。その潜在GDPとGDPの実績値との差(GDP―潜在GDP)が、需給ギャップ(GDPギャップ)となる。そのため、労働や生産性の想定される上昇率を下方修正すれば、潜在GDPが下方修正され、その結果、需給ギャップは上方修正されるのである。

需給ギャップの推計値と比べて、需給の影響を大きく受ける物価上昇率がかなり高いという現状の矛盾を、今回、需給ギャップ(GDPギャップ)の推計値を引き上げることで緩和させた、と言える。FOMCの参加者が、このFRBスタッフの分析を受け入れるとすれば、米国経済は従来認識されていたよりも過熱しており、インフレ圧力が高いことになる。その場合、FRBの利上げ姿勢をより後押しすることになるだろう。

政策金利は経済に中立的な水準を超えた

しかし、潜在成長率の推計値を引き下げることがFRBの金融政策に与える影響は、もう少し長い目で見ればもっと複雑である。潜在成長率の推計値の修正は、経済に対して中立的な政策金利(FF金利)の水準の想定にも影響し、この先FRBがどの程度の水準まで政策金利を引き上げるか(いわゆるターミナルレート)、という見通しにも影響を与えるからだ。

経済(あるいは需給ギャップ)に中立的な実質金利(名目金利―期待インフレ率)を自然利子率という。詳細な説明は省くが、この自然利子率は潜在成長率と概ね一致するとの考えがある。

現在、FOMC参加者の見通し(中央値)では、長期の(名目)政策金利の水準は+2.5%、長期のインフレ率の水準は+2.0%である。+0.5%程度の自然利子率が想定されていることになる。7月のFOMCでの利上げによって、政策金利は+2.25%~+2.5%となり、概ね経済に中立的な自然利子率の水準にまで達したことになる。9月のFOMCではさらに政策金利が引き上げられ、金融面で過度に緩和された状態は解消され、引き締めの領域に入ったのである。これを受けてFRBは、この先の利上げ幅は経済指標によって決まると宣言したのである。

FRBの利上げ姿勢をより慎重にさせる側面も

現在FRBが想定している自然利子率は、上記の通りに+0.5%程度と推定される。しかしこれは、FRBが想定している潜在成長率を示す、長期の実質GDP成長率見通しである+1.8%と比べてかなり低い。FRBは、リーマンショック(グローバル金融危機)による経済、金融の変動を受けて、自然利子率は潜在成長率から一時的に下振れるようになった、と説明してきた。

今回FRBが潜在成長率の推計値を引き下げることで、想定される自然利子率の水準が切り下がることになる。そうなれば、現在の政策金利の水準は、今まで考えていたよりも、自然利子率を大きく上回り、景気抑制的であることになるだろう。それは、FRBの利上げ姿勢を慎重にする方向に働く。

年末から来年1-3月期にFRBの利上げ縮小観測浮上でドル高円安は一巡か

このように、潜在成長率の推計値引き下げは、FRBの利上げ姿勢を後押しする面と慎重にさせる面との双方がある。ただし実際の政策運営は、こうした理論的な背景よりも、経済、物価指標や金融市場の動向などを受けて、プラグマティックに決まる側面の方が大きいだろう。

FRB内では、既に利上げ幅を縮小させる議論が浮上してきている。0.25%まで1回の利上げ幅を縮小させるとの見方が金融市場に広まれば、米国長期金利上昇の一巡、ドル高円安の一巡などにつながり、金融市場の大きな転機となるだろう。その時期は今年年末から来年1-3月期とみておきたい。

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