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市場の流動性低下と景気悪化の影響に警鐘(FRB金融安定性報告)

2022/11/07

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国債市場の流動性低下がボラティリティ上昇のリスクを高める

米連邦準備制度理事会(FRB)は11月4日に、金融システムの安定性を評価する半期に一度の金融安定性報告(FSR)を公表した。金融市場のボラティリティ(変動率)上昇、景気悪化がもたらす金融市場への悪影響など、FRBが先行きの金融市場の安定性に対する警戒を一段と強めていることを示唆するものとなった。

ブレイナード副議長は、前回5月に公表した報告書以降、企業や家計の債務状態は比較的安定を維持しており、金利上昇下でも債務返済能力は全体としては維持されている、と評価した。しかし一方で、世界同時で金融引き締めが行われ、物価が高騰し、また、感染問題やウクライナ問題に係る不確実性が存在する中、ひとたび大きなショックが起これば、金融市場の流動性低下や高いレバレッジのもとで、金融市場のボラティリティが増幅される、と警鐘を鳴らしている。

そこで、前回5月の報告書に続いて今回の報告書でも、市場の流動性の分析に焦点があてられた。2年国債、10年国債のビットアスク・スプレッドは、2021年10月から通常よりも広がった状態が続いている。年明け後は2年国債のスプレッド拡大が顕著になる一方、10年についても緩やかに広がる傾向が足元まで続いている。

このビットアスク・スプレッドは、市場の流動性を測る代表的な指標である。市場価格を大きく変動させることなく金融資産の取引を行うことができる状態が、市場の流動性が高い状態、と定義される。取引が薄く、スプレッドが拡大し、市場の流動性が低い状態だと、何らかのショックが生じた際に、価格が大きく変動するリスクが高まる。

特に国債市場の流動性が低下している場合には、ショックによって価格の変動が高まり、金利が大きく上昇すれば、それが金融機関の財務リスクを高め、また、経済活動に悪影響を与えることになる。

市場の低い流動性と景気悪化が金融システムの安定性を損ねる

他方で今回の金融安定性報告(FSR)では、物価上昇が長期化する場合には、「金利は予想を上回って引き上げられ、景気が大きく減速する可能性もある」とも指摘された。FRBは、市場の低い流動性と景気悪化の2つが、米国の金融の安定を大きく損ねかねない要因として警戒しているのである。

4日に公表された10月分米雇用統計では、失業率の上昇、賃金上昇率の低下など、労働市場の需給緩和を示唆する指標が確認される一方、雇用者数は前月比26.1万人増加と事前予想を上回った。この数字は、12月の次回米連邦公開市場委員会(FOMC)でFRBが0.5%の利上げを行うという市場の期待に変化をもたらさないだろう。

FRBは0.75%の大幅利上げを4会合連続で実施した後、先行きの景気を著しく悪化させるオーバーキルのリスクにも配慮して、先行き、利上げ幅を縮小させる可能性を示唆した。ただし、0.5%の幅であれば、まだ大幅であり、FRBの利上げ姿勢が大きく変わったとは言えない。金融市場に大きな影響力を与える利上げ幅、いわゆるマジックナンバーは0.25%である。

0.25%幅の利上げ観測が高まれば、米国長期金利の上昇は一巡し、ドル高円安も一巡するだろう。その時期は12月のFOMC後から来年1-3月期とみておきたい。

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