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終わらない中国ゼロコロナ政策と世界の物価高騰の帰趨

2022/11/10

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「ゼロコロナ政策」修正への期待が金融市場で高まったが。。。

中国および世界の経済に大きな打撃を与えている中国政府の「ゼロコロナ政策」が、中国共産党大会の終了を機に修正されるかどうかに、世界の金融市場は大きな関心を寄せている。

政策修正の可能性についての見方はなお交錯しているが、中国国内での新規感染者数が足元で再び大きく増加するなか、当面は厳しい規制が続けられ、経済への逆風がさらに強まる情勢だ。

新型コロナウイルス問題発生後、中国は厳しい規制措置を導入したことで、他国に先駆けて感染を鎮静化させることに成功した。中国政府はこの経験を、中国での感染対策、いわゆる中国モデルが正しかったことを裏付けるものとして、世界にアピールした。

そして、それを主導したのが習近平国家主席であったと考えられるため、同氏が中国共産党大会3期目を確実にするまでは、政策を修正し、政策の一部失敗を認めるようなことはできない、と考えられていた。逆に中国共産党大会で3期目入りを決めれば、経済活動に大きな打撃を与え、国民からの不満も強いと考えられる「ゼロコロナ政策」を修正するのでは、との観測が広がっていたのである。

中国共産党機関紙の人民日報に、「新型コロナの感染者の大半は軽症で、感染が人体に与える長期的な影響は大きくはない」とする記事が掲載されたが、金融市場はこれを、政府が新型コロナウイルスの脅威についての評価を公式に引き下げ、「ゼロコロナ政策」を修正する準備であると解釈した。

新規感染者数増加で「ゼロコロナ政策」は継続

こうした金融市場の楽観論を打ち砕いたのが、中国国家衛生健康委員会の11月5日の記者会見だった。同委員会の胡翔氏は、「我々の防疫戦略が完全に正しいのは実証済みだ。こうした手段は最も経済的で効果的であることも証明されている」、「秋から冬にかけて集団感染のリスクがなお存在する。ゼロコロナ政策を堅持する」と説明した。

中国政府は、海外からの入国を厳しく制限し、住民からの不満の高まりにもかかわらず都市を事前通知せずに封鎖している。鉄道と国内航空便利用の際のPCR検査義務の撤廃など、一部には規制を緩和する兆しもみられるものの、新規感染者数が再び増加する中、当面「ゼロコロナ政策」は維持されそうだ。政府自身、その緩和、解除に向けた具体的なスケジュールを持っていないのではないか。

11月8日の中国での新規感染者数は7,740人と、2日連続して7,000人を超えた。広州市では新規感染者数が2,637人となり、一部でロックダウン(都市封鎖)が実施された。野村国際の推計によると、ロックダウンや移動制限の対象は36都市の約3億800万人(7日時点)で、中国の総人口の22%にまで達している。

デフレの兆候も見られる中国経済が世界の物価高を緩和か

「ゼロコロナ政策」の経済活動への影響は、経済指標でも引き続き確認されているところだ。11月7日に発表された10月の貿易統計では、輸出と輸入がともにドル建てで減少に転じた。輸入額は前年同月比-0.7%、輸出額は同-0.3%となった。輸出入ともに前年比で減少するのは2020年5月以来、2年5か月ぶりのことである。欧米など海外経済の減速の影響と、「ゼロコロナ政策」の影響で中国の内需が弱まっていること、「ゼロコロナ政策」による生産活動の制約が、グローバルなサプライチェーンに支障を与えていることが背景にある。

さらに「ゼロコロナ」政策の経済への影響は、11月9日に発表された物価統計にも表れている。10月分消費者物価は、前年同月比+2.1%と、前月の同+2.8%から低下した。豚肉の価格高騰は続いているが、それ以外は広範囲な品目にわたって、物価上昇率の低下傾向が見られる。

他方で、10月生産者物価は前年同月比-1.3%と前月の同+0.9%を下回り、2020年12月以来ほぼ2年ぶりの下落となった。消費財の価格はなお上昇を続けているが、原材料・中間財、資本財などの価格は下落に転じている。

多くの国では引き続き物価高騰が続いているが、「ゼロコロナ政策」や統制強化による不動産不況など、政策の影響から経済活動が低迷している中国では、むしろ景気悪化のもとでの持続的な価格下落、いわゆるデフレの兆候が見られ始めているのである。

中国の名目GDPが世界全体の18.3%(2021年、IMFによる)を占める中、中国経済の悪化とデフレ傾向は、世界経済全体の悪化を後押しするだろう。他方、それと引き換えに、歴史的物価高騰を徐々に終焉へと導く役割を果たしていくのではないか。

(参考資料)
「中国政府、「ゼロコロナ」早期緩和の観測を否定」、2022年11月7日、フィナンシャルタイムズ
「ゼロコロナ政策、早期解除に暗雲 中国、感染者高水準に 推計3億人超制限」、2022年11月9日、日本経済新聞
「国家衛健委高官「ゼロコロナ政策、堅持揺るがない」 緩和の期待くじく (医薬・医療・食品)」、2022年11月7日、ChinaWave経済・産業ニュース

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