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依然として不確実性が高いFRBの先行きの利上げ姿勢

2022/11/25

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12月FOMCで0.5%への利上げ幅縮小の見通しがより強まる

米連邦準備制度理事会(FRB)が11月23日公表した連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨(11月1~2日開催分)では、「大半の参加者が、利上げのペースを低下させることがすぐに適切になる(A substantial majority of participants judged that a slowing in the pace of increase would soon be appropriate)」と記述された。0.75ポイントの利上げを継続すれば、「金融システムの不安定性とゆがみのリスクが増大する」との意見もあった。

これを受け、米国金融市場では先行きの利上げペースの縮小への期待が高まり、株高、債券高(金利低下)が進むとともに、為替市場はドル安に振れた。

ただし、利上げペースの縮小は、11月のFOMCの声明文でも以下のように記述されており、新しい情報とは言えない(コラム「FRBは12月に利上げ幅を縮小へ:円安傾向も終盤戦に」、2022年11月4日)。

「将来の利上げのペースを決める際には、委員会は金融政策が経済活動、物価、経済・金融環境に与える影響について、金融引き締めの累積的効果、時間差を考慮する(In determining the pace of future increases in the target range, the Committee will take into account the cumulative tightening of monetary policy, the lags with which monetary policy affects economic activity and inflation, and economic and financial developments.)」

さらにパウエル議長も11月のFOMC後の記者会見で「物価上昇率を2%目標に下げるために十分に引き締まった金利水準に近づけば、利上げペースを減速させることが適切になるだろう」と話していた。

議事要旨で「すぐ適切になる」との記述がなされたことは、近い将来の利上げペース縮小の蓋然性を高める追加情報である。それにもかかわらず、先行きの金利観を変えるほどのものではないと言えるだろう。既に以前から、12月のFOMCでFRBは利上げ幅を縮小させるとの見方がコンセンサスとなっており、その見方を一段と強める材料になったに過ぎない。

利上げ幅とターミナルレート

先行きのFRBの利上げ姿勢が金融市場に与える影響を考える上では、利上げ幅と最終的な政策金利のピークの水準(ターミナルレート)とを分けて考えることが、従来以上に重要になっているだろう。

パウエル議長は前回の記者会見で「物価上昇率を2%目標に下げるために十分に引き締まった金利水準は極めて不透明だ」と述べている。先行き利上げ幅が縮小していく見通しが強まっても、利上げ局面が予想よりも長期化し、その下でターミナルレートの見通しの水準が切り上がっていけば、長期金利は一段と上昇し、株価には逆風、為替市場ではドル高圧力を強める可能性があるためだ。

景気を犠牲にしても積極利上げで物価高傾向の定着を回避する覚悟は強い

利上げ幅の0.5%への縮小は見えてきたとはいえ、対ドルでの円安の終焉を含めて、FRBの利上げ姿勢の変化による金融市場の大きな転換点はまだ見えていない。FRBの中では、引き続き物価高を定着させないとの強い考えがなお根強くある。カンザスシティー連銀のジョージ総裁は、10月分の消費者物価上昇率の下振れを受けてもなお、労働集約的なサービス業では物価上昇圧力が引き続き強いため、FRBの利上げ終了時期を見据えるのは時期尚早だ、としている。

他方で、「40年に及ぶFRBでの在職期間において、このような引き締めによって痛みを伴わない結果になったことはない」とし、FRBが景気後退(リセッション)を避けつつ物価を引き下げることはますます困難になる、との見方を示している。景気を犠牲にしても積極利上げを続ける覚悟である。

議事要旨にはFRBのスタッフが、先行きの経済見通しを引き下げたことが記述されているが、それでも、FRBの利上げ姿勢が大きく変わることはなかった。

利上げ幅の0.25%までの縮小が重要

先行きの政策金利の見通しを反映する短期国債1年物の金利は現在4.7%程度、2年物は4.5%程度となっている。これは、FRBが12月に0.5%の利上げを実施した後、来年には合計で0.5%程度の利上げを実施することを織り込んだ水準だ。

しかし、年明け後に0.5%の利上げを2回実施するとの期待が浮上すれば、長期金利の水準は現状からさらに切り上がり、株安、そしてドル高円安の要因となるだろう。

利上げ幅とターミナルレートとの関係は複雑であるとはいえ、0.75%の大幅な利上げを実施してきたFRBが、0.5%ではなく0.25%まで利上げ幅を縮小させるとの見方が強まれば、それは政策金利がターミナルレートに近づいている、つまり利上げ局面が終わりに近づいているとの見方につながるだろう。

0.25%の利上げ幅は、0.75%の利上げ幅の3分の1である。仮に0.25%幅で予想よりも利上げ局面が長期化するとしても、政策金利のピークであるターミナルレートの水準には大きな違いは生じない。

FRBの金融政策について年内最大の注目点となるのは、12月13・14日のFOMCの声明文、あるいはパウエル議長の記者会見で、来年には利上げ幅が0.25%まで縮小するとの期待を金融市場が強めるような材料が出てくるかどうかである。金融市場の流れを大きく変える、いわばマジックナンバーは0.5%ではなく、0.25%の利上げ幅なのである。

金融市場が0.25%の利上げ幅を強く意識した時点で、米国長期金利は明確に下落に転じ、ドル高円安傾向も終焉を迎えることだろう。

(参考資料)
"Fed Minutes Show Most Officials Favored Slowing Rate Rises Soon(早期の米利上げ減速、大半が支持=FOMC議事要旨)", Wall Street Journal, November 24, 2022
"Reducing Inflation Without a Recession Might Not Be Feasible, Fed Official Says(景気後退なきインフレ抑制は困難=米連銀総裁)", Wall Street Journal, November 16, 2022

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