フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 日銀金融政策の展望①:日銀はYCCを修正するか

日銀金融政策の展望①:日銀はYCCを修正するか

2022/12/19

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

日本銀行はYCCの修正をせずに逃げ切ったか

日本銀行がイールドカーブ・コントロール(YCC)を修正するとの観測が、金融市場には燻っている。想定されている具体措置としては、0%と設定されている10年国債利回り目標の変動レンジを現在の±0.25%から拡大させる、10年国債利回りの目標を5年などに短期化する、の2つが代表的なものだ。いずれも、10年国債利回りのより大きな変動を容認する柔軟化策である。

今春以降、米国で長期利回りが上昇する中、日本銀行はYCCを維持し、さらに毎営業日指値オペを通じて10年国債利回りが変動レンジの上限である+0.25%を上回ることを力づくで回避してきた。その結果、日米長期金利差の拡大観測から円安が加速した面がある。日銀の硬直的な政策姿勢が物価上昇を高める悪い円安を助長しているとして、企業、家計などから批判されてきた。また、日本銀行の強硬な政策によって国債市場には混乱と歪みが生じたのである。

他方で黒田総裁は、為替への影響を狙った金融政策の変更、修正は行わないと明言してきた。しかし、円安が進んで企業、家計などからの批判が一段と高まり、また政府との関係が悪化すれば、黒田総裁もいずれは批判を受け入れて、10年国債利回りの上昇を容認するためにYCCを修正する、との観測が金融市場に浮上していたのである。

ところが、ドル円レートは10月に1ドル151円台を付けた後、為替市場では円安の修正が進んでいる。その背景には、米国の金融政策の先行きの見通しの変化と、それを映した米国の長期国債利回りの低下がある。

その結果、悪い円安を加速させるとして日本銀行の金融政策を批判する声は後退してきている。米国の金融情勢が変化したことによって、日本銀行は、政策を柔軟化、修正することなしに逃げ切った、と言えるのではないか。日本銀行がYCCを修正する可能性は低下したと考えるべきだろう。

毎営業日指値オペの廃止は選択肢に

日本銀行が当面のところでYCCに関連した措置を講じるとすれば、それは今春に導入した毎営業日指値オペを停止あるいは廃止することを、金融政策決定会合で決定することではないか。米国の長期国債利回りが低下していけば、日本の10年国債利回りも変動レンジの上限である+0.25%を顕著に下回るようになる。そうなれば、毎営業日指値オペで利回りの上昇をけん制する必要はなくなり、応札が見込まれなくなることから、毎営業日指値オペが実施されることもなくなるだろう。

日本の国債利回りに強い上昇圧力がある局面で、毎営業日指値オペの廃止を決めれば、それは、変動レンジの上限である+0.25%を超えて長期国債利回りの上昇を容認する、日本銀行の政策姿勢の修正につながる、との観測を高める。実際、企業や家計からの批判を受けて、日本銀行が長期国債利回りの上昇を容認する政策修正を行うのであれば、変動レンジの拡大よりも、毎営業日指値オペを廃止した上で、+0.25%を超えて長期国債利回りの上昇を容認するという手法を取る可能性の方が大きかったと考えられる。+0.25%は変動レンジの上限であるが、日本銀行の決定では+0.25%「程度」となっており、その「程度」の範囲内で+0.4%や+0.5%までの上昇を容認することもできたのである。

しかし、円安が一巡していることで、そのような政策修正を、方針を曲げて行う必要はなくなった。黒田総裁は外部からの批判を何とかかわして逃げ切りつつある。毎営業日指値オペの廃止は黒田総裁の在任中に決める可能性はあるが、その場合には、「金融環境が変わったことで毎営業日指値オペはその役割を終えたため」と説明できる。利回り上昇を容認する政策修正とは受け止められないことから、政策修正に強く反対してきた黒田総裁もそれを受け入れ、来年4月の退任前にも実施を決める可能性がある。

しかし、将来、再び国債利回りが上昇する場合には、毎営業日指値オペを廃止したことで、変動レンジの上限を超えて長期国債利回りの上昇を容認することができるようになる。その点を踏まえれば、毎営業日指値オペの廃止は、将来を見据えた柔軟化策の一環とも言えるのである。

10年国債利回りの目標短期化は将来の正常化策の中での選択肢

最初に示した10年国債利回りの目標短期化策は、将来的には政策修正、あるいは正常化策のプロセスの中での選択肢となろう。ただしその狙いは、10年国債利回りの上昇容認ではなく、より円滑な正常化である。

仮に5年国債利回りを目標とすれば、日本銀行は、10年国債を大量に買い入れて利回りをコントロールする必要性が低下する。その結果、日本銀行がオペで買い入れる国債は、より満期の短いゾーンの国債にシフトする。それは、日本銀行が保有する国債の平均残存期間を短期化するのである。

将来、国債を売却するのではなく償還見合いで削減していく場合には、日本銀行が保有する国債の平均残存期間が短いほど、残高を減らすスピード、つまり正常化のスピードが高まる。この観点から、日本銀行が正常化策を視野に入れた時点で、10年国債利回りの目標短期化を実施する可能性は考えられるところだ。しかし、黒田総裁の任期中はその可能性は低いだろう。

このように検討してみると、金融市場に燻る、日本銀行による早期のYCC修正観測は行き過ぎである。

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn