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「DX相談ルーム」

DX推進における陥りがちなワナと対策:デジタル戦略編 (2)

2022/07/29

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DXに取り組んでいるものの「うまく行っていない」、「なんだか迷走している」といったケースもしばしば耳にします。第2回目では、DX推進において、陥りがちなワナと対策をお伝えします。

連載「DX相談ルーム」では、DX推進担当者と、そこに伴走するNRIのシステムコンサルタントの対話を通じて、DXに関して、多くの方が抱く悩みや疑問にお答えしていきます。
※ DX推進担当者は架空の人物です。

話し手:コンサルタント 松延 智彦
1997年銀行系シンクタンクへ入社後、大手システムインテグレータを経て、2004年NRIに入社。ITマネジメントコンサルティング部にてIT組織改革、IT戦略策定、ITガバナンス確立、ITサービスマネジメント改善、情報子会社改革等を数多く手がけるとともに、企業のデジタル変革に向けたコンサルティングや情報発信を行う。

DX推進にありがちな失敗とは?

DX推進担当者
弊社のDXへの取り組みは、あまりうまくいっていないので、仕切りなおそうとしています。DX推進において、どんなことに気を付ければ良いでしょうか?

松延
一口にDXと言っても、いろいろあり、それぞれ気を付けるべきポイントが異なります。まずはその違いを認識するのが良いと思います。

DX推進担当者
確かにDXという言葉には、いろいろなものが含まれていますよね。どんなふうに分けて考えればいいのでしょう?

松延
NRIでは、DXを1.0、2.0、3.0と、大きく3つのタイプに分けて捉えています。
DX1.0は、既存の業務や事業の変革。更にこれを、顧客接点のデジタル化、企業内活動のデジタル化、IT基盤のクラウドシフトなどの高度化という3つに分類しています。DX2.0は、データやデジタル技術を活用した新たなビジネスモデルの変革。そして、DX3.0は社会課題の解決にまで目を向けたパラダイム変革です。

DX推進担当者
3つのDXがあるとは知りませんでした。その定義によると、弊社が取り組んでいるのはDX1.0と2.0ですね。

松延
日本の企業の多くは、DX1.0とDX2.0、この2つに取り組んでいます。しかし、この2つの違いは大きいため、注意が必要です。
既存の業務を変革するというDX1.0の場合、業務の生産性を向上するといったゴールや、取り組むべき課題などが、比較的わかりやすいです。
一方、新しいビジネスモデルを作るDX2.0の場合、そもそも何をしたらいいのかがわからない中で進めなければなりません。

勿論、共通の部分もありますが、DX1.0とDX2.0は、進め方も、求められる人材の要件も異なります。

DX推進担当者
DX1.0と2.0は異なる点が多いのですね。では、まずDX1.0に取り組む際には、何に気を付けるべきでしょうか?

松延
DX1.0、つまり、既存業務の変革は、現状や課題を最も理解している、それぞれの事業もしくは業務部門が中心になって行うべきです。それらの部門に、デジタル技術やデータ分析、変革をファシリテートする能力のある人をいかに融合させられるかが、成功のカギを握ります。
日本企業は現場が強い企業が多いため、DX推進部のような“外様”が主導する変革に良い顔をしないものです。
役員クラスの各部門トップから、現場をリードする部長や課長クラスに対してDXを推進するインセンティブを与える、例えば人事評価や賞与に反映するといったことなどを行い、各部門の気運を高めることが重要です。

DX推進担当者
なるほど。では、DX2.0には、どのように取り組むといいのでしょうか?

松延
DX2.0、つまり、新しいビジネスを作る場合は、既存の組織とはある程度切り離して推進した方が良いですね。
ある程度、というのは、新しいビジネスモデルといっても、例えば製造業を営む企業が、これまでのような売り切りではなく、モノを売った後も、製品からデータを収集・活用した新たなサービスを提供するというような、“隣接ビジネス”の場合は、既存部門から切り離し過ぎても上手く行きません。
一方、従来のビジネスとは全く異なる“飛び地ビジネス”の場合は、むしろ既存組織から距離を作った方が動きやすいということがあります。

DX推進担当者
DX1.0と2.0に共通する注意点はありますか?

松延
DX1.0、2.0に共通するのは、全体の状況を俯瞰しつつ、デジタル技術やデータ分析といった専門スキルを持つチームを、各部門が機動的に活用出来るよう、横断的組織の位置付けにすることです。

注力すべきは既存業務の変革? 
それともビジネスモデルの変革?

DX推進担当者
現在は、既存業務の変革を中心に、ビジネスモデルの変革にも多少取り組んでいますが、今後、どちらに力を入れるべきでしょうか?

松延
重要な質問ですね。御社では、現在のビジネスモデルを継続した場合、5年後の売上は上がっているのか、それとも下がっているのか、どちらだと考えておられるでしょうか?

DX推進担当者
実は、社内で意見が分かれているんです。中長期計画作成に当たり、「現在のビジネスモデル継続派」と、「新規ビジネスの推進派」で議論しています。

松延
現在のビジネスモデルで5年後も成長し続けられるという共通認識があるのであれば、既存業務の変革、つまりDX1.0を優先して良いと思います。ただ、新しいビジネスで既存事業を補完する位の売上を作るには、5年以上はかかることを認識したうえで、DX2.0の弾込めも行うべきだと考えます。
しかし、例えば5年後に2割以上の売上が毀損するというようなことが現実的に想定される場合は、ビジネスモデルの変革に力を注ぐ必要があるでしょう。そこまで危機的ではなくても、自動車製造や損害保険といった自動車関連業界、新聞業界、鉄道や航空業界などはDX2.0に力を注いでいる企業が多いと思います。

DX推進において最も重要なことは、こういった事業環境認識を社長以下経営層がどこまで共有出来るかだと考えます。ここがズレていると、ゴールが曖昧なものになり、推進する過程での意思決定がブレたり、不必要に時間がかかることになります。

DX推進担当者
なんだかやるべき事が見えてきました。現在のビジネスモデルの5年後の市場環境に関する判断が重要なんですね。

松延
そうですね。通常の経営戦略を策定する際に捉える事業環境変化に加えて、デジタルの技術活用動向についても5年後にどのようになっているのかを認識しておくのが良いでしょう。

既存業務や事業の変革とビジネスモデルの変革、どちらにより力を注ぐかは、いまのビジネスモデルでの5年後の市場環境の変化や予測される業績を前提にすることが重要です。

今回は、既存の業務や事業の変革(DX1.0)、ビジネスモデルの変革(DX2.0)、そして、社会課題の解決(DX3.0)というように、変革する対象によって3つの異なるDXがある事、そして、変革の対象によって必要な人材、進め方が異なるため、その違いを意識した戦略の策定が必要となる点をご紹介しました。

次回は、「既存業務の変革を目指すDXのポイント」をお届けします。

執筆者情報

  • 松延 智彦

    システムコンサルティング事業本部統括部長

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