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今年の利下げ観測を強くけん制するFRBと日銀の年内政策修正の余地

2023/01/05

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FRBは年内の利下げ観測を強くけん制

昨年12月13・14日に開かれた米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨は、金融市場の年内の利下げ観測を強くけん制するものとなった。議事要旨では、「正当な根拠のない金融状況の緩和は、特に委員会の対応に関する世間一般の誤解に基づくものである場合、物価安定を回復する委員会の取り組みを複雑化させる」との記述がなされた。

米連邦準備制度理事会(FRB)は、金融市場が2023年後半のFRBによる利下げを織り込んでいることを嫌がっているのである。早すぎる利下げ観測の浮上は、長期金利の低下や株価上昇を通じて、金融引き締めの効果を削いでしまうからだ。12月に示されたFOMC参加者による2023年末の政策金利の見通しでも、2023年内に明確に金融緩和を予想することを示すものはなかった。

FRBは12月のFOMCで、それまでの0.75%の利上げ幅を0.5%に縮小した。これに対して、金融市場が早期の利下げ観測を強めるなど、過度な反応を示さないように、FRBは事前から周到に準備をしていた。FOMC参加者による政策金利の見通しや今回示された議事要旨の記述も、そうした戦略の一環と考えられる。

金融市場は年後半の利下げ観測を修正しない

現在のFF金先市場は、今春にFF金利は5%程度でピークを付け、夏場以降にはFF金利の低下、つまり利下げの可能性が織り込まれている。年末時点では合計で0.25%から0.5%の利下げが予想されている。

FRBによる強いけん制を受けても、金融市場は年内の利下げ観測を修正していないのである。これは、金融引き締め効果を損ねない早期の利下げ観測をけん制するFRBの意図を市場が見透かしていることに加えて、FRBの政策を決める先行きの経済・物価見通しについては、金融市場の予測精度はFRBには負けていない、との考えが背景にあるのではないか。

FRBは、景気後退のリスクを一定程度甘受しつつ粘り強くインフレ抑制を続ける考えであるが、そうした姿勢が緩和の遅れをもたらし、経済を悪化させるリスクを高めるのではないか。景気と物価が予想外に下振れれば、FRBも結局は利下げを前倒しで実施することを強いられるだろう。

マイナス金利解除などの政策正常化は2024年半ば以降がメインシナリオ

ところで、日本銀行が2023年中にどの程度の政策修正を行うのかについては、米国経済・物価の動向とFRBの金融政策姿勢に大きく左右される。日本銀行は2023年中に、2%の物価目標を中長期の目標にするなど、ソフトな政策修正を行う可能性は十分に考えられる。他方で、マイナス金利解除、イールドカーブ・コントロール(YCC)解除など明確な正常化策の実施(ハードな政策修正)にまで踏み込むかどうかについては、まさに米国経済・物価動向とFRBの金融政策姿勢次第となるだろう。

国際通貨基金(IMF)が経済規模で世界の3分の1の地域が2023年には景気後退に陥ると予想しているように、今年は世界同時不況となることが見込まれる。それがどの程度本格的な不況になるかのカギを握るのは米国経済である。中長期の物価予想が総じて安定を維持する中、FRBが急速な利上げを進めてきたことで、米国経済はこの先かなり減速する可能性があるとみたい。その場合、市場はFRBの早期利下げの観測を一段と強めるだろう。

こうした環境下では、急速な円高リスクを高めかねないマイナス金利解除などの政策正常化を日本銀行が年内に実施することは難しい。特に、FRBの利下げ観測が浮上する中では、政策金利を逆方向に動かすことには日本銀行はかなり慎重になるだろう。

日本銀行は、経済や為替市場が落ち着きを取り戻し、FRBの利下げ観測がなくなるのを待って、2024年半ば以降にマイナス金利解除などの政策正常化を進めるとみたい。

米国の情勢が年内の日本銀行の政策修正の余地を左右する

一方、米国経済が予想以上に安定を維持し、物価上昇率の低下が遅れる場合には、FRBの利下げは2023年中には実施されずに、日本銀行が2023年中にマイナス金利解除などの政策正常化に動く可能性も出てくるだろう。ただしそれはあくまでリスクシナリオであり、可能性は高くないとみたい。

他方、YCCの変動幅をさらに拡大するような追加の柔軟化策については、0%の目標値を変えない限り政策変更とはならないことから、その実施に向けたハードルは、マイナス金利解除やYCCの撤廃と比べると低めである。2023年にも再度の変動幅拡大が実施されるリスクにも注意しておきたい。

ただし、米国の長期金利が低下していけば、日本の10年国債利回りにも低下圧力がかかり、現状の変動幅の上限である0.5%をかなり下回る水準で利回りが推移する可能性があるだろう。その場合には、2023年中のさらなる変動幅拡大は見送られよう。これが現時点でのメインシナリオである。

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