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米国物価高対策は2023年もFRBに委ねられる:2023年度歳出法が成立

2023/01/06

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2023年度歳出法が成立

米国の2023年度(2022年10月~2023年9月)の予算(歳出法)が、昨年末の12月29日にバイデン大統領の署名によって成立した。歳出総額は1.7兆ドルである。

2022年10月の新年度入り後も与野党の対立によって予算が成立せず、「つなぎ予算」が編成されていた。その期限切れで政府機関の一部閉鎖が12月23日夜に迫るなか、与野党は互いに優先する政策を重視した包括的歳出法案を作成し、22日に上院、23日に下院で可決、29日にはバイデン大統領の署名によって成立し、ぎりぎりのタイミングで政府閉鎖が回避された。

予算では、国防費が前年度比10%増と、拡大が際立った。台湾への軍事支援の拡充が盛り込まれた。また、ウクライナや北大西洋条約機構(NATO)の同盟国向けの支援として約450億ドルが投じられた。

物価高騰を受けてバイデン政権の財政拡張策は修正へ

昨年8月に成立した「インフレ抑制法」は、将来の財政赤字縮小を目指している。しかしそれまでのバイデン大統領の財政政策は、2021年の1.9兆ドルの「米国救済計画」以降、財政赤字拡大をいとわない財政拡張色が強いものだった。共和党は、こうしたバイデン政権の財政政策が、現在の物価高騰を招いたと強く批判している。

バイデン大統領の経済顧問たちは、ケインズ派とされる。彼らは、米国経済が2008年のリーマンショック、そして2020年のコロナショックによって、深刻な需要不足に陥っていると考え、需要創出を中心に据えた財政政策を主張してきた。

しかし、実際には、米国経済の問題は需要不足ではなく供給側にあったと言える。それは、生産上昇率の低下であり、また、コロナ問題後の労働供給の縮小などである。

この点から、バイデン政権は育児支援の拡充を通じた女性の労働参加促進などのサプライサイド政策を重視するようになってきてはいるが、いまだ有効策は打ち出せていない。

ケインズ派の流れの一つと考えられる財政拡張を強く主張する現代貨幣理論(MMT)でも、インフレの問題が生じれば、財政拡張策を見直すことを主張している。

バイデン大統領やその経済顧問たちも、物価高騰を受けて、財政拡張策を見直している。今回の包括的歳出法案には、新たな大型景気刺激策は含まれていない。また、法人減税や児童税額控除の拡充、医療支出の増加などといった施策は、当初、包括的歳出法案に含まれていたが、最終的にはすべて法案から除外されたのである。

FRBにとって2023年は多難な年に

ところが、今回の包括的歳出法は、まだ緊縮的とは言えない。既にみたように、国防費は前年度比10%増、それ以外の非国防・非緊急支出は8%増と、現在のインフレ率である7%を超えている。これは歳出法のもとで実質の財政支出はプラスであり、需要とインフレ圧力を弱めるどころかむしろ強めることになることを意味している。財政拡張色は薄めても、財政緊縮には至っていないのである。

物価高騰と共に景気の減速感も強まり、国民の間では双方に対する懸念と不安が高まるなか、バイデン政権が緊縮財政にまで踏み切ることは政治的なリスクが大きいのだろう。

その結果、物価高対策は財政政策ではなく、引き続き米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策に委ねられることになる。2023年は米国景気の悪化傾向が強まる一方、インフレ懸念は和らぐ方向と筆者は考えるが、なお情勢は不確実であることは確かだ。2023年も物価高騰が続く、あるいは大幅利上げの影響で米国景気が顕著に悪化する、どちらの場合でも、FRBの金融政策が批判され、バイデン政権は国民からの強い批判をかわすことができるだろう。

バイデン政権は、トランプ政権のようにFRBの金融政策に直接介入することはせず、その中立性を尊重している。しかし、最終的には経済情勢の悪化の責任をFRBは押し付けられる可能性があるという点で、大きな政治リスクを抱えていることは同じではないか。FRB、そしてパウエル議長にとって、2023年はより多難な年となるだろう。

(参考資料)
"Biden and Congress Still Haven't Made Inflation Central in Budget Matters"(インフレ増幅する予算、バイデン氏と議会の過ち), Wall Street Journal, December 23, 2022

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